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毛玉幻獣グリ子さん  作者: ふーろう/風楼
第三章

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まさかのブキャナン


 運転を開始してからは特に何も起こらず、順調な旅路となった。


 トラブルもなし渋滞もなし、一定の速度で車が進み続けて……途中いくつかのサービスエリアでの休憩を取る。


 幻獣達にも特に問題はなく、むしろ旅を存分に楽しんでいるようで……そもそもの目的であるグリ子さんへの魔力充填も順調だった。


 何しろ食べる食べる……サービスエリアに寄る度にそこの名物を食べまくる。


 サバカツ、米アイス、豚串、牛串……。


 更には玉コンニャクや、フランクフルトなど、名物でもなんでもない、縁日の屋台で見かけるようなものまで食べていて……その食欲は止まることを知らなかった。


 ハクトはその食欲についていけなかったが、フェー達やユウカはしっかりとついていっていて……まだまだ目的地についてもいないのに、数日分のカロリーを摂取する勢いだ。


 そんな食事だけでなく、温泉など休憩出来る所ではしっかりと休憩もしていて……ユウカはハクトに運転を任せている分、それらでのグリ子さん達の世話を懸命に頑張り……そうして道程は半ばと言うところまで差し掛かった。


「今度のサービスエリアは、唐揚げが美味しいらしいですよ! 唐揚げ!

 味が色々あるらしくて……全部食べたいですね!」


「クッキューン!」

「プッキュン!!!」

「わふー!!」


 なんて元気な声を耳にしながらハクトは、そのサービスエリアへと入っていき……そして車を駐車場に停車させた瞬間、ゴトンと何かが屋根にぶつかったような、落ちてきたような、そんな音が車内に響き渡る。


「……雹か?」


 空は晴天、季節も雹が降るような季節ではなく、そんなハクトの発言は全くの的外れだったが、ならば一体何が車の屋根に落ちてきたのか? という疑問が残ってしまい……ハクト達は警戒しながら車を降りていく。


 車から降りて車から距離を取って……高い屋根の上をどうにか見ようとすると、そこには見慣れた姿……黒い翼に黒いコート、外行きということなのか人の顔に化けているブキャナンの姿があり……口元に手の甲を押し当てて笑いを堪えているらしいブキャナンに、ハクトは半目での視線を送る。


「し、失礼しやした。

 いや、本当に……本当に邪魔するつもりはなく、ハクトさん達の旅が無事に済むよう、ちょっとだけ遠くから様子を伺っていたのでやすが……そこでまさかの光景を目にしてしまって、笑いが堪えられず思わずこちらに降り立ってしまいやした。

 ……いや、しかし、まさかあんな光景を見ることが出来るとは……。

 クックックックック……」


 そう言ってなんとも不気味な笑い声を上げるブキャナンにハクトだけでなくユウカ達も一体何なんだろう? との疑問混じりの半目での視線を送り……それからユウカは、グリ子さん達を連れてサービスエリアへと入っていってしまう。


 ブキャナンのことよりも唐揚げのことが気になったのだろう……そんなユウカ達を見送ったハクトは流石に事情を聞く必要があるかとその場に留まり、しばらくの間、笑い続けるブキャナンを見やり続ける。


「クーックックック……いや、失礼、本当に失礼しやした。

 では一旦こちらからは降りさせていただきまして……いやはや、まさかあんな光景がこの世に存在するなんて思いもしやせんでしたよ」


 するとブキャナンがそんなことを言いながら車の屋根から飛び降りて、ハクトの側までやってきながらそんな声をかけてくる。


「一体全体何があったんです?」


 ハクトがそう返すとブキャナンは、思い出し笑いをしながら口を開く。


「いえね、ハクトさんもグリ子さんの結界の強力さはご存知でしょう?

 そんな結界を破れずにいる方々がいる訳でして……彼らからすると今回の旅行は好機、またとないチャンスな訳でして……運転中の所に襲いかかろうとしていたんでやすよ。

 そうしたらですね、グリ子さんの結界に阻まれて……阻まれながら移動する結界に押しやられ続けるという現象が起きたんでやす」


 そんな説明を受けてハクトは、状況が全く想像出来なくて首を傾げる。


 阻まれながら移動するとは一体? と、そんな疑問を解決するために頭の中で簡単な図を作り上げていく。


 まずグリ子さんがいる、そのグリ子さんが球形の結界を張る、そしてそれに悪人が阻まれる。


 その状態でグリ子さんが移動すると……悪人は結界に押し込まれる形となる。


 そしてそのグリ子さんが車で移動したなら……結界に押し込まれた悪人は車と同じ速度で押し込まれ続けるということに……。


「……いや、そんなまさか。

 今までだってグリ子さんと一緒に旅行してきましたし、移動だって何度もしてきましたが、そんなトラブルは起きなかった……はず。

 そもそもとして本当にそんなことになったのだとしたら、近くのどこかで大惨事が繰り広げられていることになりませんか?

 少しでも体勢が崩れたが最後、道路に転んだ状態で押しやられ続ける訳ですよね……?」


 そんなハクトの疑問を含んだ言葉にブキャナンはコクリと頷き、笑いを堪えながら答えを返す。


「えぇ、えぇ、仰る通りでございやす。

 今まではそれ程結界が強力ではございやせんで、結界が不安定になる移動中はせいぜい近付けなくなる程度だったんでやすが、グリ子さんの力が増しているのと、移動中ずっと食事を続けたことで、魔力が補充され続けた結果が重なってのことでございやしょう。

 そして大惨事についてはアタクシの方で防いでおきやしたのでご心配なく。

 大惨事から守るついで拘束もしておきやしたんで、直に青服さんにお縄をいただくことでしょう。

 いやしかし……クックック、まさかあんな光景を拝めるとは……。

 いかにも悪人然とした男性が、見えない壁に押しやられて悲鳴を上げながら空中を吹き飛んでいくもんですから、発見した時にはもう、自らの目を疑うやら夢を見ているのかと疑うやら、大変でございやした。

 ……ちなみにアタクシがちゃんと無関係の人に被害が出ないようにもしておきやしたんで、その点はご安心くだせぇ」


「……そうですか、ありがとうございます。

 ……それで大僧正はこれからどうするんですか? いっそ一緒に旅行に来ますか?

 宿の予約はしていませんが……」


「おやおや、まさかお誘いいただけるとは思いやせんで……。

 そのお気持ちだけありがたく、アタクシはまたあんな光景が見られるのではないかとワクワクしておりやして、上空から同行させていただきはしやすが、旅の邪魔はしやせんのでご安心を。

 宿についてもコレでも大僧正……現地のお寺さんにお願いしたならいくらでも寝泊まり出来やすんで、ご安心を。

 ……そこそこ遠くから旅のご安全をお祈りさせていただきやす」


 と、そう言ってからブキャナンは空へと飛び上がっていく。


 それをなんとも言えない気分で見送ったハクトは、まぁ良いかと頭を振ってから……ユウカ達に追いつくため、休憩をするためにサービスエリアへと足を進めるのだった。


お読みいただきありがとうございました。

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