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毛玉幻獣グリ子さん  作者: ふーろう/風楼
第三章

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旅行を前に


 グリ子さんの新たな好物を発見した焼き肉を終えて帰宅し……手洗いやら鈎爪洗いやらを済ませ、歯磨きクチバシ磨き、風呂なども済ませてのリビングでのゆったりとした時間。


 ハクトが手にした本……全国各地の名物料理というタイトルの本のページをめくりながら馬肉料理について調べていると、ある料理が目に止まり、ハクトはその料理名を言葉にする。


「……なるほど、馬刺しなんてのもあったか」


 ソファでゆったりと腰掛けながらのハクトのそんな言葉を受けて、自分のベッドでいつ眠っても良いといった態度でウトウトしていたグリ子さんは、クワッと目を見開き、ついでにクチバシも開いての凄まじい顔をする。


 あの馬を刺し身に!?


 声ではなく表情でそう語りかけてくるグリ子さんにハクトは小さく笑いながら、更に本を読み進める。


「ふーむ……しぐれ煮、煮込み、ステーキ、炒め物……。

 いかにも肉料理というものが並んでいるねぇ、どれがグリ子さんの口に合うのやら……焼いた肉は食べたばかりだから、やっぱり馬刺しかな?」


 それを受けてグリ子さんは更に凄い顔をし、グリ子さんに寄り添って体を休めていたフォスも、グリ子さんを真似てか、同じような顔をする。


「……馬刺し、嫌ならやめておくけど?」


「クキュン!」


 なんて嫌な質問をするんだと、抗議の声を上げるグリ子さん。


 馬には思うところがある、あるにはあるが……美味しいものは美味しい。


 そこは紳士として気を利かせてくれても良いじゃないかと、グリ子さんはハクトに更に渋い表情で訴えかけ、はっはっはと笑ったハクトは、本へと視線を戻す。


 グリ子さんが寿司や刺し身を好きなのは既に知っている、そうなったら当然馬刺しだって好むはずで……ハクトはどこかの機会で馬刺しも食べにいくかと心に決める。


 ……が、二連続馬肉というのも芸がない、別の何かを挟むべきだろうと本を読み進めていく。


 そんなハクトにしばらくの間、渾身の物凄い顔を向けていたグリ子さんだったが、反応らしい反応を得られないことに気付いて拗ねて……キュンッと声を上げてから、テレビのリモコンをクチバシで操作し、電源を入れてからチャンネル回しを始める。


 何か面白そうな番組はないかなと、チャンネルを回して回して……そうしてグリ子さんは、お気に入りの番組を見つけて、それを見ようとクチバシを落ち着かせる。


 その番組は、小型幻獣を連れた誰かが……毎週変わるゲストが国内旅行をするというもので、小型幻獣の可愛さや旅情を味わえるのがグリ子さんのお気に入りの理由だった。


 今日の幻獣は犬系統の幻獣らしい、小さく可愛らしく召喚者によく懐いているようで、道路を歩く召喚者の足元を元気に駆け回っている。


 その可愛らしさにほっこりとし、旅の光景にワクワクとし……するとゲストが食事店へと向かい、食事をし始める。


 グリ子さんは食事シーンにはあまり興味がない方だった。

 

 普段から美味しいものを食べているし、食べ物だけを映して欲しいのにそうはならないしで、楽しめなかったのだ。


 可愛い幻獣が食事をしているシーンは悪くないのだけど、テレビに出演する小型幻獣達が食べているのは、いつも幻獣用フード……栄養バランスなどを考慮された加工食品ばかりだった。


 ペットフードとまで言わないが、それに近い代物で……あまり食欲がそそられるものではなかった。


 そんな番組を見ていると、CMが流れ始め、CMでまさにその幻獣用フードの紹介が始まり……その中で、こんな文句が放送される。


『人間用の食事は塩分と糖分が多く、幻獣の体には害になることがあり、決して食べさせてはいけません』


 それを聞いた瞬間、グリ子さんの羽毛が総毛立ち、その勢いのままベッドの上に立ち上がり、クチバシをパクパクとさせながらハクトを見やる。


 え、そうなの? 私食べまくってたけど!? 害になっちゃうの!?


 表情でもってそんなことを語るグリ子さんを見てハクトは、本を一旦閉じてから口を開く。


「グリ子さんはその心配はないよ。

 召喚直後に病院に行って色々検査しただろう? その時に人間用の食事でも問題ないという診断が下ったから、その通りにしているんだよ。

 ……まぁ、過剰な糖分や塩分が体に悪いっていうのは人間も変わらない訳で、減らせるのなら減らした方が良いのだけども……これからはそうするかい?

 そうすると多分、グリ子さんの好物は全部食べられな―――」


 と、ハクトがそう言った時だった。


 かつてない速さでグリ子さんのクチバシが動き、リモコンを操作し、チャンネルを変えてしまう。


 既にそのCMは終わっていて、番組が再開していて、チャンネルを変える意味など全くないのだけど、それでもグリ子さんはハクトの言葉を拒絶するかのようにチャンネルを変えて、あまり興味ない番組へと視線をやって何事もなかったかのように、そちらに意識を向け始める。


 これ以上この話をするとやぶ蛇だ、生真面目で頑固なハクトなら健康のためにと厳しい食事制限をしかねない。


 そんなことを察してのグリ子さんなりの策略であったのだが、その目論見はハクトにバレてしまっていて……その上でハクトは、自分も美味しい食事は数少ない楽しみだからと何も言わずに本を開いて次は何を食べるかのチェックを始める。


 旅行まであと数日、その数日も無駄にせずに美味しいものを食べまくろう。


 そうしてハクト達は連日、様々な店を巡って食事を楽しんでいった。


 多少の出費はそれ以上の稼ぎでなんとかなると遠慮せずに、旅行の準備も進めながら存分に。


 ……そして、いよいよ旅行が近付いてきたというある日のこと、仕事から帰宅するとハクトの家の前に仁王立ちする人影が1人。


 それは暫くの間、備えなどで忙しくしていたユウカで……怒っているのか悲しんでいるのか、なんとも言えない表情で仁王立ちしていたユウカは、ハクトを見るなり感情がこれでもかとこもった声を上げる。


「私も連れていってくださいよ! ご飯と旅行!!

 フェーちゃんがフォスちゃんから話聞いたって教えてくれたんですけど!! 私最近ずっとそういうの行ってないんですけど!!」


 その声に対してハクトは、いや、忙しそうにしていたから……なんてことを思うが、それをそのまま伝えても事態が好転するとも思えず、何も言わずに仕草でもって家に入るように促す。


 それを了承のサインと受け取ったのかユウカは、表情をコロっと変えて笑顔となって、グリ子さんに抱きつきながらハクトの家へと入っていくのだった。


お読み頂きありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
前回のお話を読んで、今週、馬刺しと唐揚げを食べてきました。馬肉の唐揚げも美味しかったよグリ子さん(^_^)
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