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毛玉幻獣グリ子さん  作者: ふーろう/風楼
第三章

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233/279

結局は


 あれから数日が経った。


 ユウカはブキャナンと備えを進めているようでやってくることはなく、ハクトとグリ子さんも仕事場に戻って、溜まっていた仕事を消化することに専念し……特に何事もなく平和に時が過ぎていった。


 そんなある日のこと、ワラスボ討伐の際に同行した戸田から連絡があり、食事をしたいとのことでハクトはそれを了承し……仕事終わりの夕食時。


 ハクトとグリ子さんは、戸田が手配した幻獣用タクシーでもって、駅前にある大きなビル内のレストランへと足を運んでいた。

 

 ハクトは上等なシャツに上着にスラックス、グリ子さんはクチバシと鉤爪カバーと、リボンをつけてのそれなりの格好をしていて……戸田はぴっちりと整えたスーツでハクト達を出迎えた。


 そして予約していたという個室へと案内してくれて……幻獣用なのだろう、かなり広いそこでハクトは、グリ子さん用のクッションを敷いてやってから椅子に腰掛け、メニューを開く。


 料理個別のメニューはなく、写真もなく、ただコース名と解説が書かれているのみ。


 その解説も妙に詩的で要領を得ず……渋い顔をしたハクトは、真隣に座るグリ子さんの方へと腕を伸ばし、メニューを見せてあげる。


 そんなメニューを見たグリ子さんは眉間にシワを寄せての、ハクトが始めて見る渋い顔をし……それから渋々、一番まともに思えた解説がされているコースを選ぶ。


 それを受けてハクトは自分もそれをと戸田に伝え……戸田はそれを受けて頷き、声を上げて店員を呼び、注文を済ませる。


 そうして間を置かずにグラスとドリンクが運ばれてきて……それを手に取り乾杯をすると戸田がどうしてハクトを食事に誘ったのか、その理由を話し始める。


「本日、矢縫さんをお越しいただいたのは先日の礼と……それと老人達が騒がしくなっている件についてお話したいと思ったからでして……。

 私は完全なる眉唾物だと考えておりますが、矢縫さんはどうお考えですか?」


「眉唾とまでは言いません、それなりの数の術師から出たお話のようですから。

 ただまぁ……それを信じて行動を起こす程のものではないかなと考えています。

 実際、特にこれといった備えもせずに日々を過ごしていますよ」


「それはそれは……さすがと言うべきですか、なんとも矢縫さんらしい解答で嬉しくなります。

 ……私も眉唾と考えて行動はしていないのですが、世間はそうではないようでして、どこもかしこも騒がしく、特に富裕層、権力者の騒ぎは常軌を逸しています。

 あれこれと品を買い付け、地下シェルターの建設を進め……その動きが激しすぎるために物価の上昇が始まってしまっている程です。

 ……そういった状況で私のような仕事をしている者が気にするのは裏社会のこと。

 想像で構わないのですが、矢縫家のような方々はこのような事態に際し、どういった動きを見せると思いますか?」


 そう言われてハクトは、メニューに目を通した時以上の渋い顔となるが、それでも戸田に言葉を返す。


「そういうのは自分にではなく公安にでも聞いた方が良いと思いますが……それでもあえて想像するなら、大きな動きはないと思います。

 備えるなら普段から備えているでしょうし、あの家に地下シェルターがあっても驚きませんし……そういった騒動があったらあったで稼ぎ時ではあるのでしょうし……。

 いや、違うか、むしろ今こそ稼ぎ時なのか……その物価上昇とやらも、もしかしたら裏社会の連中が小遣い稼ぎのために煽っているのかもしれませんね。

 その方が安全かつ確実に稼げますから……。

 そう考えると彼らは文明社会の寄生虫みたいなもので、文明崩壊は望んでいないはず……備えよりも防ぐ方に動いている可能性の方が高そうです」


「……なるほど、なるほど。

 その視点は欠けていましたねぇ……文明が一度滅べば、その力と備えで支配者になれるかもしれないが、そんなことよりも寄生虫でいた方が良い……宿主を殺すような寄生虫ではない訳ですか。

 ……そして今こそが稼ぎ時……確かに降って湧いた地下シェルターの建設など、普通の企業がいきなり対応出来るものでもないですからねぇ、そういった方々が動いていると見る方が自然ですか。

 いやはや卓見です、お話を聞こうと思い立ったのは正解でした、高級レストランの代金もこのお話が聞けたなら安いものです。 

 ……仮にその通りだとして、どう対応するべきだと思いますか?」


「さぁ? 流石にそれは警察の仕事でしょう。

 聞かれても困りますし……司法の力でなんとかしてください。

 ごちそうの対価は十分に支払ったと思いますけど?」


 そう言われて戸田は肩をすくめて黙り込む。


 するとそれを待っていたかのように食事の配膳が始まり……グリ子さんにも幻獣用食器に乗せられた幻獣用の料理が運ばれてくる。


 初めて目にする美しくも不思議な料理の数々。

 

 元の食材が分からない、調理法が分からない、料理に見えないような……芸術品のようなものまである。


 しかし一口食べれば美味しさが口の中いっぱいに広がり、確かに料理であることが分かる。


 それはグリ子さんを夢中にさせる味であり……物凄い勢いで料理を食べ上げていく。


 そうやって食べている間も配膳が続けられ……次々に目を奪われるような料理が眼の前に置かれて、グリ子さんはなんとも言えない不思議で楽しい時間を過ごすことになる。


 そうして完食したなら会合は終了となり、ハクト達はまたもタクシーで帰宅する……が、その途中、グリ子さんがあるものを見つけて、タクシーを降りたいと声を上げ始める。


「キュンキュン、クッキュン!」


「うん? まぁ、ここからなら徒歩で帰宅出来るから構わないけども……」


 と、そう言ってハクトはグリ子さんの希望通りタクシーを止めてもらい下車。


 するとグリ子さんはチャッチャカと何処かへ駆けていき、それを追いかけたハクトはその先で明るい看板を照らすある店を見て、納得した気分となる。


『たこ焼き』


 看板にはそう書かれていて、グリ子さんはどうやらそれを見つけて食べたくなってしまったらしい。


 高級料理を食べたばかりだと言うのに……と、思うが、グリ子さんは美味しい美味しいと言いながらも満足はしていなかったようで……どうやら高い料理よりもたこ焼きの方が舌に合うらしい。


「……高貴な幻獣なのになぁ」


 と、そう呟いたハクトはグリ子さんを追いかけながら、たこ焼きを買うためにポケットから財布を引っ張り出すのだった。


お読み頂きありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
「たこ焼き」のところで吹き出しちゃいました(^_^) グリ子さんかわいい。
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