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毛玉幻獣グリ子さん  作者: ふーろう/風楼
第三章

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230/279

予言


 温泉での回復を終えたら帰路につき、特に何事もなくハクトの家へと到着し……タクシーからの降車やら買ってきた荷物の積み下ろしなどなど忙しくしていると、すっかり聞き慣れた翼の音が上空から響いてくる。


 それを受けてブキャナンがやってきたことを察したハクト達は、タクシーへの支払いなどすべきことをさっさと終えて、それから自宅へと戻り……リビングから庭に出て、庭に降り立ったであろうブキャナンを出迎える。


「お久しぶりです、大僧正。

 ……このタイミングでいらっしゃったということは、諸々のことが片付いたのですか?」


 と、ハクトが声をかけるとブキャナンは、なんとも言えない微妙な顔をしてから言葉を返す。


「んん~~~、どう言ったら良いんでやすか、困っちまってるんですがねぇ、とりあえず吉龍さんがなんでああも焦っているのか、拙い方法でハクトさん達に手柄を立てさせようとしたのか、その理由は分かりやした。

 ……まぁ、その理由もなんとも胡乱で信じて良いのかもよく分からねぇのですがね……。

 とりあえずここで話すようなことではございやせんので、お家の中で一つ、お茶でも頂きながらお話しやしょう」


 そう言うブキャナンにハクトは頷き、リビングへと入るように促す。


 リビングには既に寛ぎ状態に入っていたグリ子さん、フェー、フォス、そしてユウカが待っていて……ハクトは人数分のお茶を淹れるため台所へ向かう。


 お茶を入れたならお茶菓子と共にリビングへと戻り……配膳をしながらブキャナンに話を促す。


「ではお茶をいただきながら……。

 まず、結論からいきやしょう……吉龍さんが妙に焦っていた理由は予言でございやす。

 世界各地の占い師や予言に関わる幻獣達が、ある日を境に唐突にほぼほぼ同じ内容の結果を出しているとかで……どうにも近々文明が崩壊するそうなんでやす」


 その言葉にハクトを含めた一同がポカンとする。


 ポカンとし、全員お茶を一口飲み……それから視線がハクトに集まり、ハクトは仕方なしに代表として言葉を返す。


「……その占いの信憑性はどの程度のもので?」


「ンー……3割程度ってとこでございやしょう。

 世界各地のなんの繋がりのない占い師達が同じ結果を出していることから、誰かが裏で仕組んだとかではねぇようで……だけども世界中の占い師や予言幻獣全部がその結果を出しているかというとそうでもねぇんでやす。

 ……まだ調査中で正確な数字は出ていねぇようですが、概ね5割程の占い師や幻獣達がそんなことを言い出しているようでして……。

 5割なら偶然でもねぇですし、十分だとお考えになるかもしれねぇでしょうが、実力のあると言いやすか、実績のある信頼されている占い師サンとかの占いには、そういう結果がでねぇんですよねぇ。

 ……以前、あのタコ連中の襲撃をグリ子さんが予言したことがございやして、いつ来るかという日にちまで見事的中されておりやしたが、今回グリ子さんはそんな予言をされておりませんよね?

 いっそ100%全員が同じような結果を出してくれてりゃぁありがたいんですがねぇ、世の中そう上手くはいかねぇようでして」


「……なるほど? 実力のない人達を中心に大体5割が世界の滅亡を予言し、数が数だけに無視出来ないと、サクラ先生達が動いていると……?」


「ア、世界の滅亡ではなく文明の崩壊なので勘違いなさいませんよう。

 世界の滅亡となったらこの世界に住まう生命全ての危機ですが、文明の崩壊なのでピンチなのは人類の皆様方だけとなりやすね」


「あ、ああ、文明の崩壊でしたね……文明の崩壊、ということは人類が絶滅する訳でもないと?

 ……人類が絶滅しない程度のダメージとなると、文明の復興や再興は恐らく可能……それすら不可能なレベルとなると、絶滅はしない程度に致命的な疫病か、文明の破壊だけを目的とした幻獣でもやってくる……とか?」


「サテ……その話を聞いて高名な占い師サンや幻獣サン達が懸命に未来を視ようとしていらっしゃいますが、その方々には元々見えてねぇもんですから、中々上手くはいかねぇようでして……。

 だからと言って何もしない訳にもいかねぇってんで、吉龍サン達は様々な手でもって備えようとしているようでございやすね。

 その一つが四聖獣の若返り……何が起こるかは分かりやせんが、文明の崩壊の危機に際して立ち向かえる戦力を用意しようとしているようでございやす」


「……なるほど。

 それはなんとも胡乱な話ですねぇ……。

 恐らくサクラ先生の考えとしては、その占いが全くの間違いであったとしても、やっていることは無駄にはならないし、笑い話が残るだけで不利益はないと、そんな感じなんでしょうね。

 ……いや、そうか、例の怪獣騒動、あれも占いの一部なのかもしれないと考えているのかもしれません。

 実際アレも気付くのが遅れていたら、やらかした組織が未だ活動中だったら、封印などが間に合わなかったら、討伐出来ていなかったらどうなっていたか……文明の崩壊に繋がってもおかしくなかったのかも。

 タコの襲撃にしてもそうです……占い通りになっていたかもしれない何かは既に起きているのかも……と、そういうことなのでしょう」


「そういう考えもありでございましょうねぇ……ん? なんでやすかグリ子さん? そんな顔をしながら近づいてきて」


 ハクトとブキャナンがあれこれと会話をしていると、黙って様子を見ていたグリ子さんが立ち上がって駆け寄り、それから声を上げる。


「クッキュン、クキュン、クッキューン、キュン」


「ん? なんて? ハクトさん、グリ子さんはなんておっしゃられてたので?」


 普段ならグリ子さんの言葉を聞き取るブキャナンだったが、今回はそれが出来なかったようで、小首を傾げながらそう尋ねて……そしてハクトは呆れ半分といった表情で口を開く。


「えぇっと……仮に文明が崩壊する何かがあってもグリ子さんの結界なら防げるそうです。

 今まで羽根を配ったとこも守られるし、グリ子さんを起点に羽根から羽根へと結界を繋げる事もできるからかなりの広範囲も可能とか。

 他の幻獣はどうか知らないけども、グリ子さんなら余裕で出来るし、そのための準備もしているとか……あ、あの魔力の玉ってそのためのものだったのか。

 ……耐火金庫を買っておいて正解だったかな」


 以前フォスが作り出した魔力の結晶と思われる玉、何のために生み出されたかよく分かっていなかった玉。


 それを必死に守ろうとするフォスのため耐火金庫を買い、そしてその中でおかしな動きまでしていた玉。


 それは結界を強化するためのものらしく……グリ子さんなりにこれから起こるらしい何かに備えていたようだ。

 

 当然そういったことは他の幻獣も備えているはずで、各国なりに備えているはずで……そんな中で文明崩壊など本当に起こるのだろうか?


 そういった状況こそが占いの結果を曖昧なものにしているかもしれず、何ならグリ子さんが羽根を配る度に結果にブレが生じているかもしれず……そのことに気付いたハクトとブキャナンは、大体の事情を察した上で、なんとも言えない気分となって小さなため息を吐き出すのだった。


 


お読み頂きありがとうございました。


全くの余談ではありますが、文明が滅ぶことはないです

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― 新着の感想 ―
そうだったのか!たとえ文明崩壊級の惨事が有っても大丈夫な様にあちこち結界を施してたんだね。美味しくなあれのおまじないじゃなかったんだ(^_^)
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