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毛玉幻獣グリ子さん  作者: ふーろう/風楼
第三章

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いつもの日常


 ワラスボ宇宙人との戦いを終えて数日後。


 諸々の事務処理が終わっての休日、今日はゆっくりするかと決めての午前10時。


 朝食やらちょっとした家事やらを終えてハクト達がリビングでゆったりとした時間を過ごしていると、呼び鈴が鳴らされ来客がやってきたことを教えてくれる。


 それを聞いてまたユウカが来たのだろうと決めつけていたハクトだったが、玄関へと向かってみるとどうやら違うようで……ドアを開けてみると、有名配送会社の制服姿が視界に入り込む。


「戸田さんからお届け物です」


 そう言われてなるほど、先日のお礼かなと納得したハクトは、受け取りのサインを済ませて妙に重いその荷物……大きめの段ボールを受け取り、配達員に礼を言ってからリビングに戻る。


「よいしょっと」


 そう言いながら段ボールを置いて改めて差出人の名前を確認すると、戸田ハリーではなくその奥さんの名前が書かれていて……まさか奥さんからのお礼とはと驚きながら、開封をしていく。


 ハサミを手に取り、ガムテームを切断し、蓋を開け……すると中にいくつかのガラス保存瓶が入っていて、その一つを引っ張り出してみると、中にはどうやら漬物が入っているようだ。


 段ボールの中には他にも封筒が一つ入っていて……開封してみると奥さんからと思われる手紙が出てくる。


 それには仕事に関するお礼と、お近付きの印ということで自作の漬物を送る旨が書かれていて……仕事の関係がある公務員からこんなものをもらってしまって良いものか? と、首を傾げたハクトは、まぁ金品でもないし良いかと、保存瓶を台所へと運んでいく。


 運んでいったなら蓋を開けて中の確認をし、そして一つ食べてみて……味も悪くないことを確認したなら、大きめの皿を用意しそれらを盛り付ける。


 それからお茶を淹れて……それらをお盆に乗せたならリビングに戻り、ベッドでゴロゴロしていたグリ子さんとフォスに声をかける。


「戸田さんの奥さんが漬物を送ってくれたんだけど、食べるかい?

 ……保存のための塩分が中々きついからたくさんは食べられないけど、それでもよかったらお茶と一緒に楽しむと良いよ」


 そう言ってからハクトはお盆をソファ近くのテーブルに置いてから、グリ子さん達用の食器を用意し、箸を構え……グリ子さん達が欲しがったものだけを食器に移すと仕草で伝えてくる。


 それを受けてグリ子さんは、ベッドのスプリングの力も借りながら跳ね起き……テーブルの前に移動してから盛り付けられた漬物をじぃっと見やる。


 菜っ葉、カブ、大根にキュウリ、ナスなどなど野菜の漬物もあれば梅干しもあり……グリ子さんは深く考えず、なんとなくキレイな色だからと梅干しだけを選ぶ。


 フォスはグリ子さんと同じ梅干しにしようとしかける……が、その匂いから何か感じたのか、梅干しは避けてキュウリとナスの漬物を選ぶ。


 それを受けてハクトが盛り付けると、早速とばかりにクチバシを伸ばし……それぞれ何の躊躇もなくクチバシの中に送り込み、咀嚼を始める。


 最初に悶えたのはフォスだった。


 ナスの漬物の食感が効いてしまったらしい、キュッキュと音をさせながらゴロゴロと悶えて……それでも懸命に咀嚼を続ける。


 次に悶えたのはグリ子さんだった。


 最初は何が起きたのか分からないといった顔で硬直し、硬直しながらもクチバシだけは動かし、梅干しをしっかりじっくり咀嚼し……そしてすぐにそれがとんでもない味のものであると気付いて声を上げながら床を転げる。


「キュゥゥゥーーン!!」


 しょっぱいすっぱい!! と、悲鳴を上げているかのような声で転げて……それを見ながらソファに腰掛けたハクトは自分も食べてみるかと梅干しを一つ口の中に放り込み、これは確かにすっぱいなと顔をしかめる。


「しっかり塩を使って甘さ一切なしで漬け込んでいる王道な梅干しだねぇ。

 これは単体で食べるとかじゃなくて、おにぎりとかにすべきかな……あとは煮物に使ったりもいいねぇ。

 焼いて楽しむ人もいるけども」


 しかめながらハクトそう言うと、グリ子さんは転がった勢いで立ち上がり、足でもって床をペシペシ蹴っての抗議をする。


「キュンキュン、クッキュン!!」


 そういうものならそのまま出さないでよ、食べやすくしてよ!


 との抗議を受けてハクトは、それならその通りにするかと立ち上がり……ついでにフォスの様子も確認しにいく。


 転げて悶えてそれでもクチバシを動かし、キュッキュと音を出しているフォスは、すっかりとその触感がくせになったようで、どこか嬉しそうに咀嚼を楽しんでいる。

 

 そういうことなら放置で良いかと台所に向かったなら、とりあえず梅干しおにぎりと、梅干しスープを作ることにする。


 モロヘイヤとネギ、とろろ昆布を鍋に入れて茹で、味付けは梅干しだけの簡単スープを作り、火を通るまでにおにぎりを握り……それらをグリ子さん用食器に盛り付けたならリビングに持っていく。


 するとグリ子さんは警戒心を顕にしながらもハクトに近付いてきて……ハクトの隣に立ち、体をグイグイ押し付けてきながら食器の中を覗き込み……ハクトがいつもの場所、グリ子さんの食事ゾーンにそれを運ぶまでずっと、それを続けてくる。


 そしてハクトが食器を置くと警戒心を緩めないままに匂いを嗅ぎ、スープをちょっとだけ舐めて、問題がないことを確認してから一気に食べ始める。


 スープを飲んでおにぎりを食べて、そしてやっぱり梅干しの味にキュッと顔をしかめるけども、先ほどとは違った美味しさに気付いて美味しそうにクチバシを動かし咀嚼して……。


「クッキュ~~ン」


 そうして気に入ったのかご機嫌な声を上げる。


 おにぎりもスープもあっという間に食べ終えて、物足りなかったのか先ほどの漬物が盛り付けられた食器の前まで移動してきて……そして学んでいないのか何なのか、またも梅干し単体をクチバシでつまみ、ハクトが「あっ」と声を上げる間にパクッと食べてしまう。


 そしてまたもその味に悶えるが……それが癖になったとばかりにグリ子さんは笑みを浮かべ、そしてもう一つ食べようとクチバシを伸ばす。


 が、そのクチバシをハクトがバシッと掴んで食べるのを妨害してくる。


「ダメダメ、食べ過ぎだよ、塩分のとり過ぎになるからね。

 ……1日1個か、多くて2個まで……さっきのおにぎりとスープだって半分に分けたのを使っていた訳で、それ以上は病気になっちゃうから絶対に駄目だよ」


 と、ハクトがそう言うとグリ子さんは、頬というか身体全体を大きく膨らませて羽毛を逆立たせ……せっかく好きになった所だったのに! と、全身を使っての抗議をしてくる……が、ハクトはあっさりとそれを受け流し、漬物を盛り付けた食器をさっと持ち上げて、グリ子さんが悲鳴を上げる中、一切動揺せずにあっさりと片付けてしまうのだった。


お読みいただきありがとうございました。

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