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毛玉幻獣グリ子さん  作者: ふーろう/風楼
第三章

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戦闘開始


 先陣を切ったのは戸田だった。


 責任者として大人として、まだまだ未成年であるハクト達よりも先にという想いがあったのだろう、真っ先に駆け出し特別製の装備で覆われた拳を二足歩行で立つワラスボ宇宙人へと叩き込む。


 黒い肌の全身を粘液のようなもので覆ったその体へと戸田の拳がまっすぐに突き当たるが、その体が揺らぐことは一切なく、まるで何も無かったかのようにハクト達に向かって歩き出そうとする。


「キュン!」


 それはいつになく切羽詰まったグリ子さんの声だった。


 高く悲鳴のようにも聞こえて、戸田に危険が迫ってきていることを伝えようとしている。


 そんなグリ子さんは全身の毛を逆立たせていて、どんな時でも余裕たっぷり、その毛を柔らかく丸く膨らませていたはずのグリ子さんの初めて見せる緊迫した様子を見て、ユウカがすぐさま行動に移す。


 地面を蹴り、拳を横腹に構えて力と魔力を貯め込んで、まっすぐにワラスボ宇宙人へと向かって突き進み、そしてこれ以上ない位置、拳がちょうど一番力が乗ったタイミングで相手に当たるだろう位置に到達したなら拳を放つ。


 まっすぐに突き進んだ際の勢いを、一切無駄なく乗せて力と魔力を爆発させて、凄まじい轟音が響き渡ると同時に、ワラスボ宇宙人が吹き飛び、壁にぶつかり……いきなり決着かと戸田が目を丸くする中、ワラスボ宇宙人は何事もなかったかのように立ち上がり、ゆっくりとハクト達の方へと向かって歩いて来る。


「……吹き飛びはする、だけどもダメージはない。

 衝撃を無効化しているのとは違うようだけども……風切君の本気の一撃を受けてアレとは驚かされるな」


 それを見てそんな声を上げたハクトは、パーティ会場中に張り巡らせていた糸へと一気に魔力を送り込み、ゆっくりと歩いているワラスボ宇宙人を縛り付けようとする。


 腕や足に糸を巻き付け、それぞれ別方向に引っ張って動きを阻害しようとする……が、上手くいかない。


 糸は巻き付くのだが、上手く縛り上げられないというか、上手く締め付けられないというか、いくら縛り上げようとしても上手くいかず、いつのまにかワラスボ宇宙人の手足がするりと抜け出てしまう。


「んん!?」


 思わずそんな声を上げたハクトは、糸に魔力を通し直しての再確認を行う。


 糸に異常はない、魔力はしっかりと流れている、自由自在に動かせる、強度にも問題はない。


 仮に相手がタコでもウナギでも、魔力でその特性を強化したタコ幻獣やウナギ幻獣であっても捕縛出来るはずの糸が、何故だかワラスボ宇宙人を捕縛することが出来ず……こうなるとワラスボ宇宙人が何かしたとしか思えない。


 ハクトがそうやって状況確認に努める中、戸田とユウカは無言のアイコンタクトでもって合図をし、歩き続けるワラスボ宇宙人を挟むように左右に立って……そして二人で同時にワラスボ宇宙人の脇腹に拳を叩き込む。


 さっきは自ら後ろに飛ぶことで威力を殺したのかもしれない。


 ならば左右から同時に挟むように、威力を受け流しようのない一撃を放ったなら通じるはず……と、考えての攻撃だったのだが、脇腹が衝撃でへこみはするものの、ワラスボ宇宙人にダメージがあった様子はなく、歩みも止めない。


「下がってくださいませ!」


 そう声を上げたのはブキャナンだった、直後会場中に黒いブキャナンの羽が舞い飛び……それらがワラスボ宇宙人へとまとわりつく。


 その全身を覆うように、その粘液にぴっとりと張り付き……すり抜けられることなくどんどんとワラスボ宇宙人を埋め尽くしていって……そして羽の塊といった姿になった瞬間、ブキャナンの魔力が込められ何かの力が発動したのか、ワラスボ宇宙人の膝が折れて片膝を突く。


「え、凄い! 私達が何しても効かなかったのに!」


 拳を構えながらユウカが声を上げる、片膝をついたワラスボ宇宙人にここぞとばかりに攻撃を仕掛けようとするが、それにブキャナンが待ったをかける。


「おまちくだせぇ!

 アタクシは彼奴に攻撃を仕掛けておりやせん! 羽で包みこんだ上で羽だけを重くしただけでございやす!

 恐らく、恐らく彼奴は自らへの攻撃を無効化しておりやす! 理屈も方法も謎ではございやすが、そうではなくては説明がつかないことが多い!

 ……が、吹き飛んだことやああして片膝突いたことから全てを無効化出来る訳ではねぇでようです!

 無効化だけならまだようごぜぇますが、魔力を吸収されていたとしたら厄介でやす、攻撃は慎重に……!」


 その言葉を受けてハクトは糸を操り、ブキャナンの援護をすべくワラスボ宇宙人ではなく、ブキャナンの羽へと糸を絡みつかせ始め……ユウカは突然そんなことを言われてもと困惑しながら魔力を抑え込み始め、そして戸田は構わず羽の塊に攻撃を放つ。


 元々戸田は魔力の扱いが得意な方ではなく、逆に魔力を込めない攻撃を得意としていた。


 攻撃することそれ自体が迂闊であったかもしれないが、こんな化け物が封印の外に出てしまったらどうなるのかという恐怖と、ここで倒しておかなければという強い義務感が戸田を突き動かしていて、その拳が複数回叩き込まれる。


 ……が、いくつかの羽が散っただけ効果は見られない。


 片膝を突いたワラスボ宇宙人はゆっくりと立ち上がっていて……立ち上がったならブキャナンが重くした羽をそのままに歩き出そうとする。


 するとパーティ会場の床が凄まじい音を立てて軋み、かなりの重量的負荷がかかっているだろうことが分かるのだが、それでもワラスボ宇宙人の動きが完全に止まることはない。


「だ、大僧正、羽はどのくらいの重さになっているので?」


 そうハクトが問いかけると、ブキャナンは、


「さて……しっかりと計測したことなどねぇもんで、なんとも……。

 ただ感覚として数トンということは無いと思っていやす。

 それだけの重量となるとワラスボ宇宙人がどうこうなる前に床が抜けてしまうでしょうから……」


 と、返す。


 その間も戸田は攻撃を続けているが効果はなく……精神を集中させ、自らの魔力を抑え込んだユウカも攻撃に参加するがやはり効果がない。


 ハクトは羽に絡めた糸を操り、どうにかワラスボ宇宙人の動きを止めようとするが、魔力をあまり込められない関係で上手くいかず……そして、そんな状況を見かねてか、様子を見守っていた幻獣達が動き出す。


 グリ子さんが先頭で、左右後方にフェーとフォス。


 全身の羽毛や毛を逆立たせながらのっしのっしと歩き始めた三頭は、羽と糸に覆い包まれたワラスボ宇宙人を鋭く睨み……そうして、


「クッキュン!」

「わふー!」

「ぷっきゅん!」


 と、声を上げてから一斉に襲いかかるのだった。




お読みいただきありがとうございました。

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