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毛玉幻獣グリ子さん  作者: ふーろう/風楼
第三章

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手合わせの結果


「ふぅーむ、なるほど。

 戸田さんのことを少し甘く見ていたかな」


「キュン?」


 幻獣犯罪対策課の道場にて、ハクトがそんなことを呟くと、隣に立つグリ子さんが体を傾げながら声を返す。


「今回の模擬戦ではお互いに魔力の使用を禁止させてもらった、そうしないと危険だからだ。

 ……魔力を一切使わない状態の風切君は、そこまでの強さではない。

 体をよく鍛えていて、技術は超一流、度胸も経験もあるものだからかなりの強さにはなるけども、体が大きい訳ではなくかなり鍛えていて大柄な戸田さんが相手では厳しいものがあったはずだ。

 それがこの結果とは……驚いたよ」


 続くハクトの声にグリ子さんは更に体を大きく傾げる。


 ハクトの言い分ではユウカが負けて当たり前のように聞こえるが、しかし目の前の光景は……、


「ありがとうございました!」


「はぁ……ぜぇ……あ、ありがとう……ございげぇっふ、ごっふ、ました……」


 というユウカと戸田の声からも分かる通り、ユウカの圧勝、戸田がなんとか倒れずに済んだというものとなっていた。


「……戸田さんは何度か風切君を攻撃出来る機会があったが、それを躊躇してしまっていた。

 怪我をさせるのが怖かったのか、風切君のことを気遣ったのか……。

 それが出来るのは相応の実力があるからで……うん、予想以上だったよ。

 幻獣対策課が現場に行く時は、今みたいにスーツ姿ではなく、専用の武器防具を装備して行くはずだから、そうなったら風切君が圧倒されていたかもしれないね。

 まぁ、魔力を使って良いとなると風切君が圧倒する側になる訳だけども」


「クッキュン~」

「ぷっきゅん」


 なるほど、と、グリ子さんとフォスが返した所で、一礼を終えたユウカがハクトが立っていた道場の隅へとやってきて、声をかけてくる。


「装備って具体的にどんなものを使うんです? ニュースとかでもそういう現場って出てこないですよね?」


「それは対処する幻獣にもよるが……軍でも使っている全身防具に盾、剣や槍を使うこともあるかな。

 その全てが幻獣素材で作られていて、流通や使用が禁じられている幻獣素材でも彼らは堂々と使うことが出来るからねぇ……かなり強力な装備になっているよ。

 もちろん銃などを使うこともある、そちらには幻獣素材は使わないらしいね……なんでも予想外の威力や事態が発生しがちになるとかで、公権力が使うには向いていないらしいね」


「は~~……確かに金羊毛羊の毛糸のコートとか、グリ子さんの羽つき帽子とか、そんなの装備されたら全力でやっても勝てそうにないですねぇ。

 フェーちゃんはもちろん、他の幻獣さんがいても難しいだろうなぁ……。

 でもそんな凄い装備した専門の人達がいるなら、サクラ先生はなんで私達に仕事頼んだりするんです? 戸田さんのことが苦手なんだとしても、どこかに誰か良さそうな人がいそうですけども?」


「それだけの装備で戦闘をしたならほぼ確実に相手を殺傷してしまうからね……サクラ先生は出来るだけそうしたくないとも考えているのだろう。

 もちろん他にも色々な理由があるはずだけども……先生の内心の全てを理解するというのは難しいかな」


 と、そんな雑談をしていると、汗を拭い息を整え、どうにか立ち直った戸田がやってきて声をかけてくる。


「……いやまったく、話には聞いていましたが驚かされましたよ。

 そして同時に頼もしく思います……道は違えど目的は同じ、平和と平穏を愛する同志にこんなにも若く強い才能が芽吹いていることは嬉しい限りです。

 君達のこれまでの活動にも改めて敬意を表しますよ、本当に素晴らしい」


 そんな戸田の言葉を受けてユウカが照れる中、ハクトはなんとも言えない表情をする。


 そこまでの考えあってのことではなく、ただただ仕事の一つとしてこなしていただけなのだが……恐らくはそれさえも戸田は褒めるのだろうと、あえて何も言わない。


「クッキュ~ン」

「ぷっきゅん!」


 そんな中、グリ子さんとフォスはなんとも自慢げに胸を張りながらそんな声を上げ、


「わふー!」


 と、フェーもそれに続く。


「幻獣の皆様もとても素晴らしい。

 あなた達のような友が増えることを、嬉しく思います」


 すると戸田はそう言って、グリ子さん達に微笑みかけ、グリ子さん達もまた微笑みを返す。


 現状を憂いてはいるが幻獣嫌いではない。


 その言葉は本当のようで、その態度に一切の嫌味はなく……グリ子さん達が戸田のそんな態度を受け入れたことで、ユウカも改めて戸田が仲間であるとの認識をし、未だにしていた警戒を解く。


 するとそれを感じ取ったのだろう、戸田は柔らかく笑い……ハクトにも同じように警戒を解くことを求めてくるが、ハクトは首を左右に振って、誰が相手でも警戒はしますよと、そんな表情をする。


 相手がたとえサクラ先生あっても一定の警戒心を捨てず、距離を保って付き合うのがハクトという男で……戸田もそれをよく分かっているのだろう、何を言うこともなく受け入れ……その手をパンと叩く。


「ともあれ、自己紹介はこれで済んだという訳で、これで気持ちよく仕事に取り掛かれますね。

 目標はあの大怪獣に由来があるという謎な幻獣……いえ、幻獣と呼んで良いものかもよく分からない謎の存在です。

 仮封印は出来ているものの、本格的な封印には遠く、ベテラン召喚者であっても対処が難しいようです。

 仮封印が出来ている現状、その封印の外に現代兵器を配置し、一斉発射で肉片すら残さず処分するという手もあるにはあるのですが、予算がかかりすぎるのと周囲に相応の被害が出てしまうので、それは最後の手段となるでしょう。

 市民の避難など安全確保も必要になってきますし……それ以外の穏便な手が欲しいと我々に声がかかりました。

 つまりですね、暴れ過ぎは駄目です、今の手合わせで風切さんの大体の実力は把握しましたが、全力を出しすぎないようにお願いします。

 ……出すなとは言いません、言いませんが出しすぎないよう、周囲への配慮を最大限するようお願いいたします。

 報酬などにつきましては、書類を用意しておきましたので、あとでそれを確認してください。

 ……はい、そうです、こちらからも報酬を支払いたいと思います。

 こういった事件の対処に民間人の力を借りるのですから、それも当然です……こちらが助力するのではなく、そちらに助力していただくという形になります」


 と、そう言って戸田は、ハクト達が言葉を返すのを待つことなく、オフィスに戻ろうと足を進め始める。


 それを受けてハクト達も何も言わず静かに、戸田の後を追いかけ……そして様々な法的ハードルを超えるための書類仕事をすることになり、ユウカは手合わせ以上の体力と精神力を、そこで消費することになるのだった。


 


お読みいただきありがとうございました。

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