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毛玉幻獣グリ子さん  作者: ふーろう/風楼
第三章

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解析


 ユウカの両親に突然現れた石の解析を依頼して……4日後、仕事を終えてハクトが帰宅すると、両親からの封書が郵便受けに届けられていた。


 どうやらその封書には解析の結果が入っているようで……ハクトは何故直接報告に来ないのだろう? 隣家なのだから封書を出すよりも直接報告したほうが楽だろうに? と、首を傾げながらそれを取り出し、リビングへと持っていく。


 そうしてうがい手洗い着替えなどの、帰宅してのルーチンをこなし、夕食を終えてから茶を淹れて……くつろぐための準備をしてから、リビングのソファに腰を下ろし封書の開封を始める。


 すると何枚かの紙が入っていて……そしてその一枚目の最初の行にこんなことが書かれていた。


『正体不明、解析不可能、全く未知の物質』


 研究の最前線で活躍するご両親でも駄目だったかと落胆するハクトだったが、後に続く文章を読み進めるとその落胆が困惑に変わっていく。


 何しろユウカの両親は正体が分からなかったことを喜んでいたのだ。


 まだまだ解析の途中で、これから更に詳しい解析をしていくそうだが……両親の感覚ではそれでも正体は掴めないはずとのことだ。


 既存の物質とはあまりにも違う構造をしていて、幻獣由来の物質とも似ても似つかない。


 詳細な解析をしようにもどう解析したら良いのか分からない、これを解析するための装置開発が必要な程に正体が掴めないらしい。


 そこまでとなると未知への恐怖や、そこまでの解析が全くの無駄であったことへの落胆、何の意味もなかったことへの失望などがありそうなものだが、両親はそのことをいたく喜んでいることが文章から伝わってくる。


 全くの未知の物質ということは、この物質から全く新しい発明などが出来るかもしれない、エネルギー革命が起きるかもしれない、新たな幻獣の時代が訪れるかもしれない。


 未知だからこそ無限の可能性が秘められていて……ユウカの両親は期待を喜びと興奮で毎日毎日解析と研究を続けていて、その熱意は研究所で寝泊まりをする程で自宅には帰っていないらしい。


「それで封書か……」


 そんな独り言を口にしたハクトは、尊敬なのか呆れなのか、なんとも言えない感情を抱きながら報告書を読み進めていく……が、ある程度読み進めた所で読むのを止めて、一旦ソファ前のテーブルに置き、その代わりテーブルに置いておいた湯呑みを手に取り、お茶を飲む。


 報告書の後半はユウカの両親による妄想劇場という内容となっていた。


 この石の解析が終わればこんなことが出来るはず、あんなことが出来るはず、きっとこんなことが出来るはずで、サンジェルマン賞の受賞も夢じゃない。


 と、そんなことが物凄い筆圧で書かれていて……読んでいるうちに胸焼けのような何かを感じてしまったハクトは、それをお茶で押し流していく。


 それからベッドの上でくつろぐグリ子さんと、金庫の上でくつろぐフォスを見やり……それから報告書に目をやる。


 あの石がもしそんなとんでもない物質であったならグリ子さんがそれ相応の反応を示しているはず。


 一時的にであれ手放すことに反対するだろうし、解析の阻止だってしていたかもしれない。


 そもそもとしてミニグリ子さんの亜種であるフォスからそんな物質が産まれるとはとても思えず……ユウカの両親の予測は当たりそうにないように思える。


 むしろその逆……非常にどうでも良い結果が待っていそうで、ハクトはすぐに返事の準備をし始める。


 それは大体こんな内容の手紙だった。


 解析をありがとうございます。

 詳細不明とのことで、結果が出なかったことは残念ですが、ひとまず既知の物質ではないことが分かりました。

 

 更に詳しい解析や研究を進めるとのことですが、生み出した幻獣の特性を考えるに、ロクな結果には繋がらないのではないかと考えています。


 あんな石のことよりも他の仕事やお体のことを大事にして頂きたく、解析の方は程々にしていただければ幸いです。


 ……と。


 封筒を用意し宛先を書き込み、手紙を入れた上でしっかりと封をし……明日の出社の際にポストに入れようと封筒を玄関の下駄箱の上に置いておく。


 そうしてリビングに戻ると、ベッドの上でコロンと転がったグリ子さんが声をかけてくる。


「クッキュン、キューン」


 それはハクトの行動を肯定しているかのような声だった。


「……グリ子さんが止めないということは、間違った判断ではないんだろうね」


 そう返すとグリ子さんは仰向けに転がって「キュンキュン」とか細い声で鳴いてから、目を閉じる。


「……まさかその格好で寝るのかい? いやまぁ、こちらは構わないのだけど……体の構造上、負担がかかりそうだなぁ」


 なんてことをハクトが言うが、グリ子さんが反応を示すことはなく……眠りに入ったのか球体だった体がだんだんと柔らかくなって潰れまんじゅうになっていく。


 それを見てフォスも金庫からベッドに飛び乗り、同じように仰向けになって寝始め……それを見て苦笑したハクトはリビングの片付けを始め、片付けが終わったなら照明をオフにして、風呂など眠る前のルーチンをこなしていく。


 それらが終わったら自室に戻り、目覚まし時計の確認をしてからベッドに入り……翌日、いつものように朝のルーチンをこなし、出社の準備をしてから封筒を手にグリ子さん達と共に家を出る。


 すると家の前でなんとも申し訳なさそうな顔をしたユウカが待っていて……ハクトがそのことを疑問に思いながらも、


「おはよう」


 と、声をかけるとユウカはそれに言葉を返してくる。


「おはようございます。

 ……えっと、ついさっき両親から電話がありまして、そろそろ手紙が届いているだろうから返事を聞いてこいって……。

 なんか、先輩からの返事が届くのが待ちきれなかったみたいです。

 ……それと電話の感じ、多分あの人達、金庫の中の大きいのも狙っちゃってますね」


 それを聞いてハクトは、頭痛がしたような気がして頭を軽く抱え……それから手にしていた封筒をユウカに差し出す。


「返事はここにあるよ。 

 内容としてはかなり微妙なものだけど……ご両親にはあまり無理と期待をしないでくれと伝えておいて欲しい。

 あのグリ子さんとフォスから産まれた物質が、そんな特別なものであるはずがないんだ。

 少なくとも世の中を変えるような力はないはずだよ」


 するとユウカは全くその通りだと頷いて、封筒を受取り礼を良い……それから物凄い速度で駆け出して、両親の下へと向かっていくのだった。


お読み頂きありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 「非常にどうでもいい・・・」吹き出してしまいました(^-^) 確かにそんな気がします。
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