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毛玉幻獣グリ子さん  作者: ふーろう/風楼
第三章

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魔力の……


 サクラ先生の来訪から数日が経って……ハクトはある問題に直面していた。


 それはあの食事会でまんまるに膨らんだグリ子さんが、膨らんだままということだ。


 会社の人達や子供達には、まん丸で可愛いと大好評だったが……ハクトにとってはまたフォスのような存在が産まれやしないかと不安になってしまう状態で、それをどうにか出来ないかと日々頭を悩ませていたのだ。


 フォスやフェーも同じく膨らんでいたが、フォス達はそのエネルギーを成長に使うはずで問題はないはず。


 問題は成長しきっているだろうグリ子さんで……あれこれ悩みに悩んだハクトは、仕事からの帰り道、夕食用のコロッケを買いながらある決断を下す。


 ……そうして帰宅後、着替えやら食事やら、すべきことを全て終えたなら、グリ子さんとフォスにベッドで寝転んでもらったハクトは、事情を説明してから右手をグリ子さん、左手をフォスにそっと振れて、その決断を実行に移す。


 それはグリ子さんの魔力をフォスに移すというものだった。


 グリ子さんはこれ以上成長の余地がないが、フォスにはある……ならばフォスに魔力を移せさえすれば、余った魔力が適切に処理されるはずだ。


「じゃぁグリ子さん、俺に魔力を流してくれ、フォスは俺の魔力を受け入れてくれ。

 ……それ以外のことに意識を向けないように、魔力が変な動きをしても困るからね」


 そう告げてからハクトは、両手に魔力を込めてグリ子さんの魔力を操ろうとする。


 グリ子さんはすぐにそれを受け入れ、ハクトの中へと魔力が流れ始め……流れるにつれてだんだんとグリ子さんの体がしぼんでいく。


 それは端から見るとかなり驚くというか、とんでもない光景だったのだが、ハクトは魔力に意識を向けているために視認せず、グリ子さんとフォスもまた魔力とハクトに意識を向けているため、それに気付かない。


 そしてハクトは自らに流れる魔力を一旦、自らの体に貯め込んで、流れをしっかりと制御し、フォスに負担をかけてしまわないよう、ゆっくりゆっくり少しずつフォスに送り込んでいく。


 それを受け入れたフォスは、自らの中に徐々に魔力を貯め込んでいき……貯め込めるだけの量を貯め込んだなら、それ以上の魔力を自らのうちに溜め込むのではなく、クチバシの中で練り上げ始める。


 それはフォスがそうしたというよりも、フォスの中の本能がそうさせたもので、フォスも気付かないうちに練り上げてしまっていて……ハクトもグリ子さんも、そのことに気付かないまま、魔力の移行を続けていく。


 ……そうして過剰な魔力全てがグリ子さんから吸い上げられて、グリ子さんが元通りのサイズになり……それを確認したハクトの両手が離れて作業が終了となる。


「……ふぅ、無事に終えることが出来たかな」


「クッキュン」


 すぐに無事だと応えるグリ子さん。


 だけどもフォスからは何も反応がなく、慌ててハクトとグリ子さんが視線をやると、フォスはなんとも気持ち悪そうに表情を歪めていて……そしてこんな声を上げ始める。


「けふっ……ぷきゅっ……けっふ……」


 吐き気でもあるのか、猫が毛玉を吐き出す時のような声を上げて……これはまずいとハクトが手を伸ばしたその瞬間。


「ぷっきゅん!!」


 と、くしゃみのように声を弾かせたフォスが、クチバシからガラス玉のようなものを吐き出す。


 それはぱっと見にはビー玉のように見える、手のひらサイズ程のビー玉。


 ガラス製のようでもあり、真珠のようでもあり……その中では虹色に輝く魔力が渦巻いていて……ハクトが恐る恐る触れてみると実体があり、魔力の塊や魔法で発生したものではないことが分かる。


 では一体これは何なのか?


 試しに掴んでみると、硬さや質感はほぼほぼビー玉、フォスの体内から出てきたならそれなりに温かいはずなのだが、ひんやりとしていて……持ち上げてみるとやはりそれは大きなビー玉のように見える。


 天井の電灯に掲げてみると、本当にビー玉のように光が中を通り、中で渦巻く虹色が綺麗に輝き……ハクトはそれを見上げながら声を上げる。


「……ビー玉を事前に飲んでいた……訳はないよねぇ。

 さっきまで普通にコロッケを食べていたのだし……そうなると魔力の塊、かな?

 魔力が結晶化する例というのは聞いた覚えはあるけども、まさか目の前でその現象が起きるなんてなぁ……。

 さて、これをどうしたものか……」


 と、ハクトが魔力ビー玉を掲げながら悩んでいると、ようやく状況を理解したらしいフォスが声を上げる。


「ぷっきゅ、きゅん、ぷっきゅん!」


「クッキュン、キュン、クッキューン!」


 続いてグリ子さんも声を上げる、両者の主張は概ね同じ内容のようだ。


「自分が生み出したものなんだから、自分で管理する……か。

 確かにこれはフォスが生み出したものなんだから、フォスがどうするかを判断すべきか……じゃぁどうする? どこかに飾っておく?」


 と、ハクトが尋ねると、すっかり元気を取り戻したフォスは、ぴょんとベッドから飛び降り、普段自分が使っている丸クッションをクチバシでつまみ上げ、その中央の凹みに魔力ビー玉を置けと、仕草で示してくる。


 それを受けてハクトは素直に、フォスの言う通りにしてクッションの上に魔力ビー玉をそっと置く。


 するとフォスはその上にぴょんと飛び乗り、まるで卵を温めるが如く鎮座する。

 

 そうやって温めたからといって何がある訳でもないが……鳥型? 幻獣の本能のようなものだろうとハクトはそれを受け入れることにし、


「分かった、好きにして良いよ。

 ただ他の人に見られたら面倒になるだろうから、来客があったりしたらベッドの下にクッションごと引っ張り込むこと。

 皆で外出する時は俺が持ち歩くから……そのための袋も用意しておこうか。

 それと……持ち歩けない時のために耐火金庫でも買っておくかな。

 ……グリフォン的にはお宝をしっかりと守ってくれる金庫は、そう悪い道具ではないでしょ?」


 との言葉をかける。


 するとグリ子さんとフォスは、その目をきらりと輝かせる。


 黄金や財宝を守るグリフォンとしては、そのための道具に興味津々といった様子らしい。


 宝物庫=グリフォンの巣と言ってもよく、その簡易版となる金庫はグリ子さん達にとって、特別なアイテムになるようだ。


「じゃぁ今度の休みに金庫を買いにいこうか」


 と、ハクトが言葉を続けるとグリ子さん達は、


「クッキュン!」

「プッキュン!」


 なんて嬉しそうな声を元気いっぱいに上げるのだった。


お読み頂きありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] グリ子さんも魔力玉作れたのかな? フォスがそういうの得意だったのか
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