99 スライムさんと負け方
「こんにちは」
「ふふ……。わたしのまけだ……」
よろず屋に入ったら、スライムさんがカウンターの上でなにか言っていた。
「……ちがいますね。……つよくなったな……。これですかね……」
スライムさんが、きりっ、とした顔になったり、いつもどおりの顔になったりしながら、なにかひとりで言っている。
「スライムさん?」
「……あ、えいむさん! いらっしゃいませ!」
スライムさんが、くるっ、と私に向き直った。
「さて。えいむさん、しょうぶです!」
「勝負?」
「これを」
スライムさんは、木の皿のようなものを、横からひっぱってきた。
上には、四角い、石のようなものがのっていた。
「これは、10こあります! これをつかったしょうぶです!」
「ふうん?」
「いちどに、3こまで、とれます! じゅんばんにとっていって、さいごのいっこを、とったほうの、まけです!」
「なるほど」
全部で10個。
「どっちから?」
「えいむさんからどうぞ!」
「わかった」
とりあえず、2個、取ってみた。
「じゃあぼくは、3こ!」
スライムさんは3個とった。
残りは5個。
……おや?
これ、私の負けなのでは?
「えいむさん、どうしました?」
スライムさんがにこにこしながら言う。
私は1個とった。
「ぼくは2こ!」
「え? ……じゃあ、わたしは1個?」
残ったのは、1個だけだ。
「ということは、ぼくがとらなければならないので、ぼくの、まけですね……。つよくなりましたね、えいむさん……」
スライムさんは、きりっ、として言った。
「……どういうこと? スライムさん、わざと負けたの?」
「えいむさん。そんなことはどうでもいいのです!」
「どうでもいい?」
ますますわからない。
「ぼくはいま、かっこいいまけかた、のけんきゅうをしています」
「かっこいい負け方?」
「そうです」
スライムさんは右へ左へ、ぺこぺこ歩きながら言う。
「どんなしょうぶでも、まけるときは、あります。そんなとき! かっこいいまけかた、をしたら、どうおもいますか!」
「えっと……?」
「じっしつ、かちですね!?」
スライムさんは、私をじっと見た。
「……実質、勝ち?」
「そうです! かっこよくまけることは、じっしつ、かちです!」
「だからさっき、変なこと言ってたんだね。強くなりましたね、とか」
「へんでしたか!?」
スライムさんが、びくっ、とした。
「あ、そんなに変じゃなかったよ」
私は急いで言った。
「いいんです、えいむさん……。そんな、うその、なぐさめは、いりませんよ!」
「じゃあ、変だった」
「えいむさん! ほんねと、たてまえは、じんせいのきほんですよ!」
「でも、たしかに、かっこよく負けるなら、あんまり負けた感じにならないかもね」
負けるというのは、いろいろな意味がある。
その中でも、かっこ悪い、というのは、気になるところだ。
かっこ悪くないなら、たしかに、負けても気にならないかもしれない。
「じゃあ、つぎは、もうひとつのまけかたをみせます! そっちのほうが、かっこいいですから!」
「そう? じゃあ、もう一回やってみる?」
「はい!」
私たちは、お皿の上に石みたいなものをもどした。
「えいむさんからどうぞ!」
「わかった」
私は、3個とってみた。
「ぼくは2こ!」
スライムさんが2個とる。
残りは5個で、私の番。
「あ、また私の負けだ」
1個とればスライムさんが3個とって、残り1個になって負け。
2個とればスライムさんが2個とって、残り1個になって負け。
3個とればスライムさんが1個とって、残り1個になって負け。
「スライムさんがわざと負けてくれてるから勝てるけど、これって私の負けだよね。最初からやり直したほうが、気分が出るかな?」
「……!! えいむさん、ずるいです!」
スライムさんが、ブルブルブルブルふるえている。
「え? なに?」
「えいむさんが、かっこいいまけかたをしました!」
「どういうこと?」
「まだ、さいごまでとってないのに、じぶんがまけたことを、さっしました! それなのに、よゆうたっぷりです! ずるいです!」
スライムさんがカウンターからおりてきて、私のまわりをぴょんぴょんとびはじめた。
「ちょっと、ちょっと、スライムさん」
「『これってわたしのまけだよね……』かっこいいです!」
「そんなことないと思うけど」
「かっこいいのに、かっこよさを、じまんしない! かっこいい!! はっ、そうだ!」
スライムさんが、ピタリと止まった。
「どうしたの?」
「えいむさん。ぼくを、でしにしてください」
「弟子?」
「かっこよさの、でしです!」
「そんなの私、わかんないよ」
「さっきみたいなやつを、おしえてください!」
「知らないよ。自然に言っただけなんだから」
「!! かっこいいのが、しぜんに……!! かっこよさの、てんさいです!」
スライムさんが、ぷにょぷにょと、体を押しつけてくる。
「ししょう! おしえてください!」
「知りません!」
「ししょう!」
「知らない!」
私はお店を出て、追いかけてくるスライムさんから逃げまわった。




