98 スライムさんと矛盾
「こんにちは」
「いらっしゃいませ!」
スライムさんは、カウンターの上にいた。
なにか置いてある。
「スライムさん、それなに?」
「これですか? これは、しきょうひんです」
「試供品?」
カウンターの上には、一本だけのフォークみたいな棒と、ゆるやかにふくらんだコースターみたいな板があった。
どちらも銀色で、金属製のようだ。
「なんの試供品?」
「さいきょうのやりと、さいきょうのたてです!」
「え? 最強?」
私が言うと、スライムさんは、ちょっと得意げになった。
「そうです! このやりは、どんなたても、つらぬいてしまうさいきょうのやりの、しきょうひんです」
「最強のヤリの、試供品」
「こっちは、どんなぶきもふせいでしまう、さいきょうのたての、しきょうひんです!」
「最強の盾の、試供品」
「べつべつのおみせから、もらいました!」
私は、ふたつの試供品を見た。私が一生知ることのないような材料なのだろう。
「最強のヤリが試供品でためせるなんて、便利だね」
「いい、じだいになりました」
「さわってもいいの?」
「どうぞ!」
私は、一本もフォークみたいなものを持ってみた。
「ふつうのフォークくらいの重さだね」
「そうですね!」
盾の方も、ふつうの鉄に思えた。
指でさわったときの、ちょっとしたひんやりした感触もそうだ。
「でも、どっちも最強なの?」
「ぼくも、そこがしんぱいです! だから、かんぜんに、さいきょうのほうを、かおうかな、とおもってます!」
「ふうん?」
「さいきょうのやりと、さいきょうのたて! どっちがかつとおもいますか! ぶつけてみてください!」
スライムさんは言った。
「え?」
「ぼくは、うまくそれをつかえないので、えいむさん、おねがいします!」
「私がやっていいの?」
「おねがいします!」
「でも、どっちか、こわれちゃうんじゃない?」
「いいんです! さいきょうと、さいきょうが、そろったんですよ!? それをぶつけないなんて、できたてのおいしいぱんが、さめるまでみているようなものですよ!」
スライムさんが顔を、きりっ、とさせた。
「……? パンが、さめるまで……?」
「えいむさん、おねがいます!」
そして、スライムさんは、顔をカウンターにつけるようにして、横になった。
おねがいをしているらしい。
「私がやればいいんだね?」
「はい!」
スライムさんはぴょん、と起き上がった。
「さすがえいむさん!」
「ふっふっふ。さすが、私でしょう」
「!! じかく、あり……」
スライムさんは、期待のこもった目で私を見た。
「おねがいします!」
「ヤリを、盾に刺せばいいんだよね?」
「そうです!」
ところで、スライムさんがあまりに期待しているので緊張してきた。
私も慎重に、失敗しないように……。
左手で盾を持って、右手でヤリを持った。
「いくよ?」
「はい!」
「いきまーす」
私は、ゆっくりヤリを盾に近づけた。
じりじりと近づけると、スライムさんもじりじり近づいてくる。
そして、ヤリの先が盾にふれた。
「いくよ?」
「はい……!」
「えいっ。あ」
ぷつっ、という感触があって、ヤリが刺さった。
そして、盾の裏側に、ヤリの先がきらりと光ったのが見えた。
「刺さったよ」
「やりが、かった……!」
スライムさんは、なんともいえない顔をした。
「やはり、せかいは、ぶき……! こうげきの、せかい……! たたかいの、せかい……! かなしくても、これが、げんじつ……!」
「あれ? でも待って」
私は、ヤリに力を入れた。
前にも後ろにも動かない。
「スライムさん。ヤリが、これ以上進まないし、もどらないよ」
「どういうことですか!」
「わからないけど……。あ」
「なんですか?」
「どんな武器でも、防ぐ盾なんだよね?」
「そうです!」
「どんな盾でもつらぬくヤリ、なんだよね?」
「そうです!」
「じゃあ、どっちも成功だよね?」
「……? !!」
スライムさんは、あらためて、盾とヤリをよく見ていた。
「ヤリはつらいぬいてるし、盾は防いでるからさ」
「!! そうですね!」
「この場合は、どっちの勝ちなの?」
「……どっちもかちです! さいきょうです!」
スライムさんは、ぷるぷる震えていた。
「スライムさん?」
「さいきょうとさいきょうがぶつかったら、まさか、どっちもさいきょうだとは……! おどろきです……!」
「最強がわからなくて、残念じゃないの?」
「なにをいってるんですかえいむさん! これは、さいきょうのけっかですよ! この、ささったやりとたては、おみせにかざっておきます!」
「よかったね」
よくわからないけど。
「はい!」
「じゃあ、試供品じゃないやつを、注文するんだね」
「しません」
「え?」
「ささってるところが、かっこいいので! おおきいとじゃまです!」
「そうなんだ?」
大きいほうがかっこいいと思ったんだけど。
なかなか、最強は、むずかしい。




