96 スライムさんとくしゃみ
「へっくしゅん!」
私がくしゃみをしたら、カウンターの上のスライムさんが、おどろいたようにこっちを見た。
「あ、ごめんね」
「えいむさん、それは……、くしゃみですね?」
「えっと、最近ちょっと寒かったから、今日はカゼぎみ」
「えいむさんは、くしゃみを、こくふくしませんでしたか?」
スライムさんは言って、私を見る。
「そうだっけ?」
「そうです!」
「ああ、そういえば……」
スライムさんに、謎のものをもらって、鼻に入れたことがあった。
そうしたら。
「そうそう、あれからは、ちゅんっ、ていうくしゃみになったね。すごく、楽になった」
「そうでしょう!」
スライムさんは、満足そうにした。
「でも、今日は……、へっくしゅん!」
また、しっかりと、くしゃみが出た。
「もどっちゃったね」
「ああ……、そんな……。ざんねんです……」
スライムさんはうつむいた。
それから、ぱっ、と顔を上げた。
「ところでえいむさん。くしゃみって、どうやってやるんですか?」
「え?」
「いま、おもったんです。ぼくも、くしゃみをしてみたいって」
スライムさんは言って、私を見る。
「スライムさん、くしゃみしたことないの?」
「ないです」
「そっか。じゃあ、しなくていいんじゃない?」
「どうしてですか!」
「だって、くしゃみって、あんまりうれしくないよ」
私が言うと、スライムさんは、ぱちぱち、とまばたきした。
「どうしてですか?」
「鼻水が出るし、変な声が出るし、ちょっと、なんていうか、つかれるし」
つかれるって言うと変かもしれないけど。
「なんだか変なところに力が入って、変な感じになるよ」
「そうなんですか?」
「だから、やめておきなよ」
「……でも、ぼくはやりたいです!」
「ええ?」
スライムさんは、まっすぐに私を見た。
「ぼくも『くしゃみなんて、いいもんじゃないよ……、ふっ』って言いたいです!」
「私はそんなこと言ってないけどね」
「どうすればいいですか?」
「うーん。へっくしゅん! って言ってみたら?」
「わかりました!」
スライムさんは、カウンターの上で、しっかりと構えた。
「へっくしゅん!」
と言った。
「くしゃみじゃないね」
「そうですね! どうしたらいいですか!」
「えっと、うーん。へっくしゅん! って言うだけじゃなくて、目をつぶって、口から思いっきり息をはくとか?」
「わかりました!」
スライムさんが構える。
「へっくしゅん!」
「おっ、そうそう」
いまのは、ちょっとそれっぽかった。
「へっくしゅん!」
「いいよいいよ」
「へっくしゅん!」
「じょうず、じょうず」
「へっくしゅん!」
「その調子」
「へっくしゅん!」
「うんうん」
「へっくしゅん!」
スライムさんは、私を見た。
「せんせい、どうですか!」
「うん。くしゃみっぽくなったよ」
「そうですか! ぼくも、くしゃみをしたって、いえますか!?」
「うん」
「ありがとうございます!」
「これからも、れんしゅうをしなさい」
「わかりました!」
「……へっくしょい!」
私もくしゃみが出た。
「なんだか、スライムさんのくしゃみ聞いてたら、私も出ちゃった」
「えいむさん……」
スライムさんは、なぜだか衝撃を受けたようだった。
「どうしたの?」
「へ……」
「へ……?」
「へっくしょい、でした……」
スライムが言う。
「え?」
「へっくしゅん! じゃなくて、へっくしょい!」
「ああ、いまのくしゃみが?」
「ぼくのしらないやつです……」
スライムさんはプルプル震えている。
「えっと、そういうのもあるんだよ」
「おしえてください!」
「あ、うん、じゃあ……。へぶしっ」
「あ、あ、ああ……」
スライムさんが、また衝撃を受けたように震えている。
「あ、へぶ、へぶ……」
「えっと、スライムさん?」
「またしらないくしゃみが……」
「えっと、スライムさん?」
「もしかして、あと、100しゅるいくらいは、あるかもしれませんか……?」
スライムさんが、震えながら私を見る。
「え、あ、でも、人によっていろいろかも……」
「!! やっぱり!!」
「でも、そんなに多くはないと思うよ……? へっくしょいとか、へっくしゅんとかくらいで」
「さっき、えいむさんは、へぶしっ! っていいました!」
「それは……」
「えいむさん! このせかいに、ひとが、なんにんいるか、わかってますか!」
「え?」
「100にんより、おおいですよ!」
「それはそうなんだけど、でも」
「こうしちゃいられない!」
スライムさんがよろず屋を飛び出した。
「どこ行くのスライムさん!」
走って追いかける。
「せかいに、ひとが、なんにんいるか、かぞえてきます!」
「待ってスライムさん!」
「くしゃみのためです! このせかいの、にんずうを、ときあかします!」
「待ってー!」




