95 エイムと魔法使いの杖
「これ、なんか変わってるね」
私は、カウンターの横に置いてあったあった杖を、ひろいあげた。
色はピンクで、先は、赤い宝石のようなものが入っている。私の目の大きさくらい。
その両側には、羽のような白いかざりがついている。
「それは、まほうつかいのつえです!」
スライムさんは言った。
「魔法使いの杖って、こんな感じだった?」
私が思い浮かべるものは、古い木の枝がすこし曲がりながら形になったようなものだ。色合いも、ぼんやりした茶色。
でもこれは、なんだか全体的につやつやしているし、色もはっきりしている。
「えいむさん、しってますか?」
「なに?」
スライムさんは、声をひそめた。
「よのなかには、いろいろなつえが、あるんですよ……」
「なるほど」
「つかってみますか?」
「私が?」
「はい!」
スライムさんは、ぴょん! とはねた。
「でも、魔法使いの杖なんでしょ? 私、魔法使いじゃないよ」
「これは、ふるだけで、つかえるやつです!」
「そうなんだ。あ、火とか出ない?」
「でません! これは、まほうつかいになる、つえです!」
「魔法使いになれるの?」
「はい!」
どういうことだろう。
「じゃあ、火とか、出るんじゃない?」
「そういうくわしいことはわかりませんが、まほうつかいになる、つえです」
「ふうん」
危ないかもしれないので、いったん、私とスライムさんはお店を出た。
近くの草原で杖をかかげる。
「振ればいいの?」
「はい! ぴんきー、ぴんきー、といってください!」
「ピンキーピンキー?」
「はい!」
「じゃ、いくよ!」
私は、杖を振ってみた。
「ピンキーピンキー。わっ」
ピカー! っと光った。
そして。
「なにこれ」
おどろいた。
私の服が変わっている。
フリルがたくさんついたピンクの服で、短いスカートがふくれあがっている。
白い手袋と、白い、つやつやのくつ。
髪の毛も、足首まで届くくらい長くなっていた。
「これは、おどろきましたスラね!」
スライムさんがやってくる。
いや、飛んでくる。
体の両側に、白い羽が生えたスライムさんが、ぴょこぴょこ飛んでくるのだ。
「すっかり、みちがえましたスラ!」
「スライムさんも、どうしたの?」
「ぼくもきづいたら、こうなってましたスラ!」
スライムさんが、私の上をくるくるまわるように飛ぶ。
「これ、どうしたらいいの?」
「まほうしょうじょ、ぴんきーえいむとして、やっていくスラ!」
「なにそれ!?」
「このせかいのへいわを、まもるスラ!」
スライムさんは、すっかり、なにかをやる気になっている。
「スライムさん」
「すらっしゅとよんでくださいスラ!」
「……スラッシュ」
「なにスラ?」
「えっと、いったん、もとどおりになるためにはどうしたらいいの?」
「もとになんて、もどりませんスラ! このまま、ふたりで、せかいをすくうスラ!」
「ええ!?」
「さあ、世界を救うスラ!」
「ちょっと! ずっとこのままじゃいられないよ」
そう言って、二、三歩歩いたら、変な音がした。
歩くたび、ぴょこん、ぴょこん、という音がする。
そして、私が歩いた場所が一瞬、キラリ、キラリと光った。
「これなに?」
「ぴんきーえいむがあるいたところは、きらきらひかるスラ!」
「……えっと」
「がんばりすらっしゅ!」
スライムさんが、きりっ、と決めた。
「……じゃあ、たとえばだけど」
「なんですか?」
「もとにもどるときって、どんなふうにもどるの?」
「そういうときは、つえをふりながら、きんぴ、きんぴ、といいます」
「キンピ、キンピ!」
杖を振る。
すると、ちょっとだけまわりが光った。
元通りの服装になっていた。
スライムさんも、羽がなくなっている。
ほっとした。
「あれ? えいむさん、なにをしてたんでしたっけ?」
スライムさんが、きょとんとしていた。
「覚えてないの?」
「つえを、つかうんですよね?」
「えーと……。やっぱりやめたところ」
「どうしてですか?」
「ちょっと気が変わったの。そういうことってあるでしょ?」
「ありますね……。ありますね!」
スライムさんは、ぴょん、とはねた。
「じゃあ、他のことしようか」
「いいものがあります!」
「なに?」
「さふぁいあ、になれるまほうつかいのつえです! きのう、にゅうかしました!」
「それはやめておこう」
「どうしてですか!」
スライムさんは、目を見開いた。




