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88 スライムさんとくだもの割り

「くだものわり、をしたいんですけれども」


 よろず屋に入ったら、急にスライムさんが言った。

 カウンターの上で、真剣な表情だ。


「果物を、割るの……?」

「そうです……。くだものを、わるんです……!」


 スライムさんは言った。


「……なんのために?」

「えいむさん、しらないんですね?」

「知らない」

「ぼくもよくしりません!」

「そうなんだ」

「でも、どうやら、くだものをわると、たのしいらしいと、ききました!」

「楽しいの……? あ。もしかして、割るっていうのは、切るってこと?」


 土地によっては、同じ意味でも別の言葉を使ったりもする。

 ということは……。


「ちがいます。わるんです」

 そう言ってスライムさんが出してきたのは、棒だった。

 割るらしい。


「あついひに、みんなでそれをやると、すごくもりあがって、たのしいらしいです!」

「ふうん……?」

 暑い日に果物を割るのが楽しい。

 どういうことだろう。


「どの果物でもいいの?」

「ある、とくていのくだものらしいです」

「ふんふん」

「いじょうです」

「以上かー」

「いじょうです!」

「なんだろう……。でもきっと、オレンジとかじゃないよね?」


 棒でたたいたら、割れないでつぶれてしまう。

「なるほど!」

「ということは、殻がある果物……?」

 そんなものあるだろうか。


「ぼくもいちおう、よういしてみました!」


 スライムさんが持ってきたのは、オレンジだった。


「えっと……?」

「めんぼくない! こんなことになるとは! おれんじだけしか、かんがえてませんでした! ぼくは、おれんじのすらいむでした!」


 スライムさんがぺたっとカウンターに顔をつけた。


 スライムさんは顔を上げた。


「でも、やってみますか?」



 というわけで、お盆の上にオレンジをのせ、私は棒を持った。

「これでいいの?」

「せいしきです!」

「そっか。オレンジを叩けばいいんだよね」

「はい」

「いいんだよね?」

「はい!」

「それっ!」


 私は、ためらいつつも棒でオレンジをたたいた。


 予想通り、ぶしゅっ、と音がして、オレンジの上の部分がちょっとつぶれた。


 私たちは顔を見合わせた。


「つぶれたね」

「つぶれましたね」


 私はオレンジを持った。

 ぽた、ぽた、と果汁が落ちる。


「これどうしようか」

 私は、そうっと皮をむいてみた。

 半分くらいむけたけど、あとはつぶれていてやりにくい。


「そういえば、くだものわりは、めかくしをしたほうがいいかもしれません……」

 スライムさんが急に言った。

「え?」

「あ、なんでもないです。それより」


 スライムさんが奥に行って、もどってきた。


「これはどうですか?」

 スライムさんが、白い、薄い布を持ってきてくれた。


「これは?」

「これでしぼったら、どうでしょうか」

「なるほど!」


 私はさっそく、なんとかオレンジの中身を取り出して布で包み、それをグラスに絞ってみた。

「おお」

「おおお!」


 オレンジ色の液体が、きれいにたまっていく。


「おいしそうですね!」

「飲んでみる?」

「えいむさんからどうぞ!」

「いいの?」

「どうぞ!」


 私はひとくち、飲んでみた。


「ん! くー!」

「どうですか?」

「スライムさんも飲んでみて」

「はい!」

 私はスライムさんに飲ませてあげた。


 スライムさんが、ぴょーん! と飛び上がった。


「!! すっぱいです!」

「だよね」

「えいむさん! だましましたね!」

「私も飲んだからいいんだよ」

「? そうなんですかね?」

「ふふふ」

「! やっぱりだましたんですね!」

「ふっふっふ」

「えいむさん!」


 そんなことを言いながらも、私はもうひとくち、飲んでみた。

「……くー!」

「エイムさん? どうしてのんだんですか?」

「なんだかちょっと、くせになる酸っぱさ」

「……ぼくものみます!」

「スライムさんは飲みたくないんでしょ?」

「……のみます!」

「じゃあいいよ、はい」

「……!!」


 スライムさんが飛び上がった。


「すっぱいです! ……はー、でも、これは、たしかに……」

「ん?」

「くせになりますね……」

 スライムさんは、しみじみ言って、また飲んだ。


 私はそれを見ながら、スライムさんの青とオレンジが合わさって、スライムさんの体がすこし緑色になってるなあ……、と思った。

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