86 お手伝いスライムさん
「いらっしゃいませ、えいむさま」
よろず屋に入ると、スライムさんはいつものようにカウンターの上へ飛び出してくるのではなく、おっとりと迎えてくれた。
頭にフリルのついたカチューシャをつけている。
「ど、どうしたの、スライムさん」
「ぼくはおてつだいすらいむです」
「お手伝いスライム」
「なんでもごようをどうぞ!」
スライムさんは、にっこり笑った。
「あ、そう……。どうしようかな」
「なんでもどうぞ!」
「えっと、じゃあ、どうしてお手伝いスライムさんになったのか、教えてもらえる?」
「いいでしょう!」
スライムさんはぴょん、とはねた。
「あれはですね、きのうのことでした」
「ふんふん」
「ぼくはほんをよんでいました」
「そうなんだ。えらいね」
「そうでしょう! ぼくはすごいすらいむですから!」
スライムさんは、ぴょん、ととんだ。
それから、ずれてしまったカチューシャを整える。
「こほん。そのほんに、めいどさんがでていました。めいどさんは、おてつだいを、たくさんしているひとで、すごいとおもったんです」
「ふんふん」
「みならうべき! とおもいました」
「なるほどね」
「はい! なんでもいってください!」
スライムさんはやる気のある目をしている。
とてもやる気のある目をしている。
それはいいんだけど、問題もある。
私はご主人さまになった経験がないのだ。
「じゃあ……」
「はい!」
「お店のそうじでもしてもらおうかなあ……」
「わかりました!」
スライムさんは、ほうきを持ってきた。
「このおみせは、ほこりがたまっているので、きれいにします!」
「がんばって」
「はい!」
スライムさんは、なんとかほうきを抱えるようにすると、そうじを始めた。
「どう? スライムさん」
「ぼくは、おてつだいすらいむです」
「どう? お手伝いスライムさん」
「ぼくは、こんなの、よゆうの、すらいむですね!」
スライムさんは、たどたどしくほうきを使っていた。
「スライムさん、手伝おうか?」
「なにをおっしゃるえいむさん。ぼくをだれだか、わすれましたか?」
「お手伝いスライムさん」
「そのとおりです! ぼくは、てつだうことはあっても、てつだわれることなんてありません! それが……?」
スライムさんが、なにかを求めるように私を見る。
「お手伝いスライムさん?」
「もっとげんきに!」
「お手伝いスライムさん!」
「もっと大きな声で!」
「お手伝いスライムさん!!」
「そのとおり!」
スライムさんは、満足そうにした。
それから、たどたどしく、ほうきを使う。
「……お手伝いスライムさん」
「なんですか?」
「そのカチューシャ、もう一個ある?」
「ありますよ!」
スライムさんは、奥に行った。
もどってきた。
頭にのってるカチューシャの数が増えていた。
私は一個もらって頭につける。
「どう?」
「ぴったりです! いいです!」
「じゃ、ほうきは私がやるね」
私はスライムさんからほうきを受け取った。
「だめですよえいむさん! ぼくがだれだかわすれたんですか!」
「お手伝いスライムさん!」
「そうですよ! これはぼくのしごとです!」
「じゃあ、私は誰だと思う?」
「? えいむさんです」
「ちっちっちっ」
私は、人さし指を振った。
「私は、お手伝いエイムさんです」
「!」
「だから、お手伝いスライムさんのお手伝いをしても、おかしくないのです!」
「!!」
「手伝ってもいい?」
「いいです! いっしょにやりましょう!」
スライムさんは、ぴょん、ととんだ。




