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82 スライムさんとだるまさんがころんだ

 よろずやに行くと、お店の前にスライムさんがいた。


 ひとつの柱の前で、柱に向かっている。

 と思ったら、いきなりぴょん、と振り返った。


 と思ったら、また柱に向かった。


 なにをしてるんだろう。


 そのまま見てたら、振り返ったときに私に気づいて、ぴょんぴょんとんだ。

「えいむさん! なにしてるんですか!」

「スライムさんこそ」

「ぼくは、だるまさんをしています!」

「だるまさん?」

「そうです! あ、ちがいます!」

「どっち?」


 私はスライムさんのところまで行って、話を聞くことにした。


「えいむさん、だるまさんがころんだんです」

「誰?」

「だるまさんです」

「だるまさんって?」

「しりません」


 話せば話すほどわからなくなっていく。


「ふりかえったときには、うごきをとめなければなりません」

「ふうん? そういうあそび!」

「はい!」



「つまり、片方が動いて、片方が柱の前で、だるまさんがころんだ、って言う間は動いていいってこと?」

「そのとおりです!」

「なるほど」

「やってみましょう!」


 スライムさんは柱を向いた。


 私は構える。


「だるまさんが……」


 スライムさんが言い始めた。

 私はちょっと歩いてみる。


「ころんだ!」


 スライムさんが、ぱっ、とこっちを見る。

 私はぴたっと動きを止めた。


「だるまさんが……」

 スライムさんはまた柱を見ながら言い始める。


 私はちょこちょこ歩いてみた。


「ころんだ!」


 スライムさんが、ぱっ、とこっちを見る。

 私はぴたっと動きを止めた。


「だるまさんが……」


 またスライムさんが柱を見ながら言い始める。


「ちょっと、スライムさん」

「……なんですか?」


 スライムさんが不満そうにこっちを向いた。

「ぼくはいま、ころんだ! というき、まんまんだったんですけれども……。みせばだったんですけども!」

「ごめんね」

「ゆるします!」


「えっと、それで私はどうすればいいの?」

「えいむさんは、ぼくがみたとき、とまっていないといけませんよ!」

「そうじゃなくて、ええと……。スライムさんは、だるまさんがころんだ、って言うんでしょ?」

「そうです! すばらしいやくめです!」

「私はなにも役目がないの……?」

「ほう……」


 スライムさんは、じっくり私を見た。

 それから、おだやかな笑顔になった。


「えいむさん。やくめがないひとなんて、いないんですよ……」

「そうじゃなくて、この遊びって、私はなにをすればいいの?」

「えっ?」

「スライムさんの役割しかわからないんだけど。見られたら、動かないようにすればいいのはわかるけど」

「なるほど。えいむさんの、あそびのやくめ……」

「知らない?」

「しりませんね」

「そっか……」

「じゃあ、かんがえましょう!」

「え?」


「わからないことは、かんがえればいいんです! あきらめたりなんてしなくていいんです! ぼくらには、ものを、かんがえるというちからが、あるのですから!」


 スライムさんは言った。


 たしかにそのとおりだ。

 知らないからってあきらめたりしないで、いま考えればいいんだ。


 私たちは生きている。

 ものを考えるという力があるんだ。


「考えてみようよ、スライムさん!」

「はい、えいむさん!」


 私たちはうなずきあって、決意を確認した。



 それはそれとして、雨が降ってきたので私たちはよろず屋に入った。

「やくそうはおいしいですね!」

「うん!」

「だるまさんがころんだは、どういうるーるなんでしょうね!」

「なんだろうね。だるまさんがころんだっていうんだから、それがヒントなんだろうけど」

「そうですね! そこからかんがえましょう!」


「そういえばスライムさん」

「なんですか?」

「どうして、だるまさんがころんだ、って言うのかな」

「それは……、それはもちろん、ちゃんと、うごきをとめられなかっただるまさんが、ころんでしまったんですよ!」

 スライムさんは自信満々で言った。


「それって、だるまさんがころんだときには、もう、だるまさんがころんだの遊びがあったんだよね?」

「そうです!」

「じゃあ、ころぶまえは、なんていう名前だったんだろう」

「……」

 スライムさんはだまって考えていた。


 そして私を見た。

「えいむさん」

「なに?」

「いまはただ、やくそうを、たべましょう……」

 そうおだやかに言って、スライムさんは薬草を食べた。

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