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81 エイムとチーズ

「ぴぴぴ。ぴぴ? ぴっぴ」


 よろず屋に入ると、カウンターの上にいるスライムさんがそんなことを言った。


「スライムさん?」

「ぴぴぴ」


 鳴き声だろうか。

 ちょっと首をかしげるような、顔をななめにして私を見ていた。


「スライムさんじゃなくて、スライム?」

「ぴぴ!」

 同意するように言った。


「じゃあ、今日は帰ります」

「ぴぴ」

 スライムは顔を振った。


「だめなの?」

「と、このように、ことばというのは、とってもたいせつなものだとわかりますね?」

「やっぱりスライムさんだった!」

「ふっふっふ!」


「さてえいむさん。いまのことについて、どうおもいますか?」

 スライムさんは言った。


「どう?」

「ことばがつうじないと、たいへんですよね?」

「そうだね」

「あいてがまものだったりしたら、あぶないかもしれませんね?」

「そうだよね」

「そんなときには、これです!」


 スライムさんは、ちょっと横にあった箱を、ぽんぽん、とした。

「ちょっとこれ、あけてください」


 箱は上にかぶさっているだけだった。

 開けてみると、中にはお皿と、その上には白くて四角いものがいくつもならんでいた。


「これは、ほんにゃく……、ほん……。……」

 スライムさんはだまった。


「こほん。これは、ほんやくちーずです」

 言い終わったスライムさんは、ほっとしたように笑った。

「ほんやくチーズ? チーズなの、これ?」

「そうです」


「これをたべるだけで、ことばがつうじないあいてとも、おはなしができるように、なります!」

「それはすごい」

「すごいでしょう! ほんとうは、ちーずではなく、もっとぷるぷるした、こん……なんとか、というたべものらしいですが」

「らしいですが?」

「それはいろいろあって、れきしのはざまに、きえました」

「そうなんだ」

「まあ、こん、なんとかのはなしはわすれましょう」


 スライムさんは遠くを見た。


「食べていいの?」

「もちろんです!」

「じゃ、いただきます」

「どうぞ」


 私はチーズをひとつ持った。

 指でつまんで、かんたんにひとくちで食べられるくらいの小さなものだ。

 ちょっと、においが強かったりしたらどうしよう、と思ったけれどもそんなこともなく、素直なチーズだった。


「おいしい」

 やわらかくて、クセがなくて、ミルクみたいだ。

 飲みこんだら、すぐまたこの味が食べたくなるくらい。


「もう一個食べてもいい?」

「どうぞ!」

「やった」


 口に入れると、クセがないのにミルクをとても感じる。

 ちゃんとチーズの形をしているのに、食べるとやわらかくて、溶けるようだった。


「どうですか?」

「おいしい! こんなにおいしいチーズ食べたの初めてかもしれない!」

「それはよかったです!」

「スライムさんは食べないの?」

「ぼくは、ちーずって、そこそこなので。そんなにおいしいですか?」

「うん! 私もチーズってそこそこだったけど、これはとってもおいしい!」


 私はまたチーズを食べた。

 やっぱりおいしい。


 私はぱくぱく食べる。

 止まらない。


「えいむさん、そんなにおいしいですか?」

「うん!」

「おかしいですね……。ぼくと、えいむさんのみかくはそんなにかわらないとおもうんですけど……。そんなにおいしくないですよね?」

「おいしい!」

「きのうをゆうせんして、あじは、にのつぎに、なってるはずなんですけど」


 ぱくぱく。

 ぱくぱく。


「あ!」

 スライムさんが急に言った。


「ほんやくちーずは、こっちでした」


 スライムさんはさらに横にあった箱を出してきた。


「……じゃあ、こっちはなに?」

「えっと、やめられないとまらない、ちーずです」

「とまらない?」

 ぱくぱく。


「おいしいってことです!」

 スライムさんは言った。


 そしてスライムさんも食べた。

「おいしいです!」

「おいしいね!」

「えいむさん、いっぱいたべすぎですよ! ぱくぱく!」

「ふっふっふ。私はチーズ大好きだからいいのだぱくぱく」

「えいむさん、さっきはそこそこっていってましたぱくぱく!」

「忘れたなあーぱくぱく」

「えいむさん!」

「ぱくぱく」

「ぱくぱく!」

「ぱくぱく!」


 私たちは言葉の大切さを忘れて、チーズの大切さを感じていた。

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