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80 スライムさんとてるてる坊主

「あれ、降ってきた」


 よろず屋から帰ろうとしたら、ぽつり、ぽつりと雨が降り始めた。

 みるみる雨は強まっていく。バラバラと屋根に雨が当たっていた。


「あめですか?」

 スライムさんが、ぴょん、と私の横にやってきた。

「くもってただけだから、私レインコート持ってこなかったよ」

「じゃあ、えいむさんもあれ、つかいますか?」

 スライムさんが言っているのは、棒の先が広がった布になっている、あれのことだろう。


「ちょっと待ってみる。急に降ってきたから、急にやむかもしれないし」

「なるほどですね! なるほどですね!」

「なにそれ?」

「きのうから、ぼくのなかで、はやっています! きょうでおわりです!」

「そうなんだ」


 雨音が大きい。

 さらに強まっていっているような気がする。


「早くやまないかなあ」

 まだ時間はあるけれど、暗くなってから帰るのはちょっと心配だ。


「えいむさん……」

 スライムさんが、小声で言った。

「どうしたの」

「じつは、あめを、やませるほうほうが、あります……」

 スライムさんが、うつろな目で言った。

「ねえ、どうしたの?」

「あめを、やませる、のろいの、にんぎょうが、あります……」

「呪いの人形?」

「そうです……。ちょっとまっててください……」



 スライムさんが用意したのは、布、手のひらくらいの大きさの玉、ひもだった。

「もってきました! これは、とくべつなものではないのですけども、のろいのにんぎょうをつくれるのです! あ、ちがいました。もってきました……」

 スライムさんは、うつろな目で、ぼそぼそと、言い直した。


「これはなに?」

「えいむさん……、これを、ぬのでつつんでください……」

「うん」


 私は玉を布でくるんだ。

「あ、ちがいます、ぬのをかけたら、まるいところがもっとしっかりみえるように、あ、そうです、そんなかんじで、つつんだところを、ゆびできゅっ、とおさえて、そうですそうです、あーそうですそうです!」

 スライムさんの指示に従い、私は玉を布で包んで、人さし指と親指を輪にした部分で抑えた。


「それで、いまゆびでおさえているところを、ひもでしばってください」

「わかった。……こう?」

「そうです! そうしたらさいごに、たまのところに、かおをかいてください!」

「顔を?」


 私は、にっこり笑った目と口を書いてみた。

 首のところで長いスカートをはいた子、みたいな形になった。


「こう?」

「そうです! あ! そうです……」

 スライムさんは思い出したように、うつろな目でぼそぼそ言った。


「これが、のろいの、にんぎょうです……」

「これが?」

 にこにこしてるけど。


「これをつるして、あめにぬらすことで、はれにするのです……」

「晴れに」

 晴れにする呪い。

「やってみてください!」


 私はよろず屋の外側、木が出っ張ってるところがあった。私の顔の高さくらいの場所だ。

 そこにひもをかけた。


 人形がぶらさがる。


「これでいいです!」

「いいの?」

「いいです!」

「これだとこの人形、雨にぬれないけど」

「……、よしとしましょう!」

 スライムさんが宣言した。


 そのときだった。


「えっ」


 風が強くなってきて、目を開けていられないほどの風が一瞬吹いた。


 目を開けると、くるくると回るようにしている風が、人形を空中でくるくるともてあそんでいた。

 強風で人形がはずれて、舞い上がる。


「スライムさん!」

「あわわ……」


 スライムさんもびっくりしていた。


 雨をからめとるように、風がくるくる巻いている。

 たくさんの雨粒で、風が見える。


 そのまんなかで飛んでいる人形。

 どんどん高くなっていく。

 

 雨粒の渦の頂点にいた人形は、そのまま、高く高く舞い上がっていって、見えなくなった。


 すると厚い雲に大きな穴が空いた。

 水面に一滴落ちたみたいに、波紋のように穴は広がっていった。

 空の雲はなくなり、すっかり晴れてしまった。


 私はスライムさんを見た。


「これが、呪いの人形の効果なの?」

「……、……たぶん、そうです!」


 呪いというより、もっといいもののように思えたけど、なんと言ったらいいかわからず、私は空を見ていた。

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