79 スライムさんとゴミ箱
「こんにちは」
「いらっしゃいませ!」
私がお店に入ると、スライムさんがカウンターの上でぴょん、とはねた。
「ん?」
私は、よろず屋の端に落ちていた紙くずを拾った。
「スライムさん、これどこに捨てたらいいの?」
「それは、あそこです」
スライムさんが見たのは、お店のすみに置いてある箱だった。
ちょうどスライムさんがすっぽりはまるくらいの大きさだ。
「じゃあ捨てておくね」
「ちょっとまってください!」
スライムさんは急に大きな声で言った。
「え?」
「そこから、なげてみてください!」
私は、箱と、紙くずを見比べた。
箱まではだいたい五歩くらいの距離だ。
「わかった」
私は、紙くずをしっかりと丸めて投げた。
箱の角にあたって、床に落ちる。
「おしいですねえ!」
「うん」
「もういっかい、やってみてください!」
「え? わかった」
私もちょっとくやしかったので、もう一回やってみる。
「えい」
今度はぴったりだ。
箱の中心に落ちる。
そう思ったけれども、今度は箱の手前にあたって、床に落ちてしまった。
「あれー」
「おしいですねえ!」
スライムさんが言う。
その顔が、なんだか、変に笑っている気がする。
「……スライムさん」
「ふふふ、なんですか?」
「なにかたくらんでない?」
「な、なななななななんにもたくらんでませんよ!」
「そう?」
「そうですよ! ぼくに、なにかたくらませたらたいしたもんだ!」
「そっか。スライムさんがそんなことするわけないよね」
「そうですよ!」
「どんなしかけなの?」
「じつはですね、あのはこは、これは、とんできたものを、なかにいれないまほうがかかっている、じょうたいです」
スライムさんがスラスラ話す。
「ふるくは、このげんりをおうようして、せんそうで、とんできたものをよけるよろい、をつくったとか、つくらなかったとか、いわれています」
「つくらなかったかもしれない」
「そうです。れきしというのは、いろいろありますからね。つたわっているものが、しんじつとは、かぎらないのです……」
スライムさんは、遠くを見た。
「その箱を手に入れたスライムさんは、紙くずをさりげなく置いておいて、私に捨てさせようとした、と」
「そうです!」
「そうすれば、私がびっくりするだろうと」
「そうです!」
「だましたと」
「そうです! いや、だましたというといいかたがわるいです!」
「というと?」
「さ……、さぷらいずです!」
「なにか言っておくことは?」
「すみませんでした」
スライムさんは素直にあやまった。
「よろしい。許す」
「ぼくはゆるされました」
「でもこれ、逆になったら便利だよね」
「ぎゃく、ですか?」
「うん。中に吸い込まれる箱なら、便利じゃない?」
「なるほど。そうですね!」
「できる?」
「できますよ!」
スライムさんは、箱をひっくり返した。
いや箱だと思っていたけれども、底がない。
四角形の筒、というか。
「できました!」
「これでいいの?」
「はい!」
私は、紙くずを投げてみた。
「おっ」
ちょっと入るかどうかわからないような場所に投げたら、すいっ、と吸い込まれるように枠の中に入った。
「スライムさん、これは便利だよ」
「そうですね!」
「ゴミ箱以外でも使えそうだよ!」
「そうですね!」
「あ、でも、もしかしてお高いの……?」
「いっこ、2000ごーるどです!」
「高い、かもしれないけどきっと、ほしい人もいる!」
「いまならもういっこ、おつけします!」
「なんておとく!」
でもよく考えたら、底がないわけだし、そこまで便利じゃないかもしれないな。
そんなことを考えていたら、ぼこっ! という音がした。
なんの音かと見ると、箱がつぶれて、くしゃくしゃになっていた。
金属みたいだけど、紙くずのようにつぶれているのだ。
それがさらにつぶれていって、玉のようになり、消えた。
「え、なに……?」
「よくわかりませんけど、しばらくすると、こうなります」
「見えなくなったけど」
「しょうめつしました」
「消滅」
「これ、……中になにか入ってたりすると?」
「おもいものでも、かたいものでも、ぜんぶ、きえます」
「私が手を入れてたとしたら?」
「しょうめつです。あ、でも、そのときはぼくがちゅういするから、だいじょうぶです! では、これをしんせいひんとして、だいだいてきにうりだしましょう!」
「小さい子どもとか、手を入れちゃったら?」
「えっと……」
うきうきしていたスライムさんの顔が、だんだん無表情になっていった。
「これって、お店にたくさん仕入れたの?」
「これは、いっこだけです! おーだーめいどですので、まだ、にゅうかよていは、ありません!」
「そっか」
「はい!」
「じゃあ、このことは忘れて、薬草でも食べようか」
「そうですね!」




