78 スライムさんと俳句
「えいむさん」
「なに?」
スライムさんは、カウンターの上で自信ありげに笑っていた。
「えいむさん」
「だから、なに?」
「ふっふっふ。いまの、えいむさん、はひとあじちがうと、おもいませんでしたか?」
「名前の呼び方が特別だったってこと? ううん、思わなかった」
「えいむさん、まだまだですね」
スライムさんは言う。
まだまだ?
「そのエイムさん、はどっち? ひと味ちがう?」
「これは、ふつうのえいむさんです」
「そう。どうちがうの?」
「これは、はいく、です」
スライムさんは言った。
「はいく?」
「はい。ごもじで、いいかんじのことをいうのが、はいくです」
「五文字で、いい感じのこと」
「そうです」
「私の名前はいい感じなの?」
「だいぶ、いいかんじです!」
そう言われると、悪い気はしない。
「えいむさん、いいかんじのごもじ、おもいつきますか?」
「いい感じ……。スライムさん、は六文字だもんね」
「それでもいいです!」
「いいの!?」
ルールを根底からひっくり返す発言だった。
「でも、ごもじをこえたら、そのときは、じあまり! といわなければなりません!」
「じあまり?」
「じあまり、というのは、じがあまっている、ということです」
「なるほど」
「じつは、ほかにも、じあまりにはいろいろないみがありますが……」
「ありますが?」
「……きょうのところは、まだ、つたえません。これは、はいくの、しんずいですから」
じあまりは、しんずい。
「じあまりって、すごいんだね」
「そうです」
スライムさんは重々しく言った。
「えいむさんも、やってみますか?」
「はいく?」
「はい」
「うん、やってみる」
「はいくのるーるは、じゅんばんに、ごもじの、いいかんじのことをいいます」
「わかった」
「では、とくべつに、えいむさんからいいですよ」
「私から? じゃあ、えっと、どうしようかな……」
私は、カウンターにならんでいる薬草を見た。
「薬草、じゃ四文字。足りないもんね」
「やくそうの、とかで、ふやしてもいいですよ!」
「そうなの? じゃあ、やくそうの」
「いいですね! おもむきがあります!」
「そう?」
「なれてきたら、おもむきがある、というと、かっこいいです」
「へえ」
「じゃあ、ぼくは、どくけしそう! じあまり!」
「おー、出たね、じあまり!」
「ふっふっふ。ぼくは、じあまりのつかいてですから!」
それじゃあ、次はどうしようかな。
「よろず屋に」
「おおー……、またまた、おもむきがありますね!」
「やった」
おもむき、あった。
「では僕は……。やくそうはおいしい! じあまり!」
「出たね、じあまり!」
「ふっふっふ。ぼくは、かぎりなく、じあまりのつかいてですから!」
「じゃあ私も。えっと……、雨の日の朝は」
「じあまり!」
「えっ」
スライムさんに、じあまりを言われてしまった。
これはいったい……?
「えいむさん、ざんねんなおしらせです……」
「なに?」
「じあまりは、あいてがいっても、いいんです!」
「なんだって!」
「ですから、えいむさんの、まけです!」
「なんだって!」
私は、とてつもなくがっかりしたかのように、床に手をついてうなだれてみた。
スライムさんが、ぽん、と私の肩をさわる。
「えいむさん……。これも、せいちょうするために、ひつような、まけです……」
「そうだね、スライムさん……。私、がんばるよ!」
「そのいきです!」
「うん! あとスライムさん!」
「なんですか!」
「ルールは、ちゃんと最後まで教えてね!」
「わかりました!」
それから私たちは、はいく、で遊んだ。
「あさはねむたい」
「じあまり!」
「ぐわあ! ぼくのまけです!」
「ふふふ」
「えいむさん、かなりじあまりに、なれてきましたね!」
「次も勝つよ」
「……では、そろそろ、きご、をおしえてもいいかもしれませんね……」
「きご?」
「とてつもなく、おもむきがある、ことばです!」
「おお……」
「きごは、しんずいです……!」
「きごも、しんずい……!」
第二のしんずいだ。
「えいむさん、いきますよ!」
「かかってきなさい!」




