77 スライムさんと傘
雨の日、私はレインコートを来てよろず屋へと歩いていた。
すると。
近くまで来たとき、お店の前に変なものが見えてきた。
「あれは……」
スライムさんだ。
スライムさんの頭になにか刺さっている。
棒のようなものが刺さっていて、それは棒の先で花が開くように広がっていた。といっても、上向きに広がっているのではなく、下向きに開いている形というか。
骨組みがあって、布かなにかがはってあることで雨を防いでいるようだ。
「やあえいむさん、ごきげんいかがですか?」
スライムさんは、ちょっとふらふらしながらやってくる。
「スライムさん、どうしたの、それ」
「これですか? これは、はんぶるぐですよ」
「ハンブルグ?」
「そうです。あめをふせぐどうぐで、はんぶるぐといいます」
「ハンブルグ……」
「あ、やっぱりあんばらばかもしれません!」
「アンバラバ?」
「そんぶれらかもしれませんね!?」
「ソンブレラ」
これは、あくまで私の予想だけれど、全部まちがってる気がする。
「まあ、れいんこーとのじだいは、おわってしまいましたね……!」
「スライムさんは、ひとつの時代を終わらせてしまった」
「そのとおりです!」
「でもそれ、だいじょうぶなの?」
私はスライムさんの頭に刺さっている部分を見た。
「なにがですか?」
「刺さってるけど」
「さすことで、あんていします!」
スライムさんがキリッ。
「えっと、そうじゃなくて。痛くないの?」
棒が刺さって、スライムさんの体の中を通っているのが透けて見える。
「いたくはないですけど、すこし、きがとおくなるしゅんかんは、あります!」
「やめようよ!」
「じゃあ、ぬいてください」
私は棒をつかんで、ゆっくりと引き抜いた。
「ふう……。やっぱり、ささってないほうが、かいてきですね!」
スライムさんはにっこり笑った。
「そりゃそうだよ!」
私はそのまま、スライムさんがぬれないように、ハンブルグ・アンバラバ・ソンブレラをかかげた。
これで私もスライムさんもぬれない。
「今日は雨で大きくならないの?」
「おおきくなるひもあれば、ならないひもある。それがじんせいです……」
スライムさんは、しみじみ言った。
私は頭の上を見た。
これの下にいると、雨粒をたたく音がなんだか大きく聞こえてくる。
「雨の音がひびくね」
「そうです! うるさいですけど、おもしろいです!」
雨音といえば、屋根をたたく音が聞こえてくることはある。
でもそれはもっと小さい音だし、遠い。
これはすぐ頭の上だ。
パラパラパラパラ、という連続した音は、単調に思えて、ちょっとちがったところがある。
ちょっとうるさいのに、なんだか気持ちが落ち着いてくる気がしてふしぎだった。
「スライムさん。……スライムさん?」
気づくとスライムさんは、目をつぶっていた。
「……なんですか、えいむさん」
「寝てた?」
「なんだかねむくなってしまいました」
「また徹夜したの?」
「してませんよ。ただ、このあめのおとが、なんだか……」
スライムさんはまた目を閉じた。
私は、スライムさんが完全に眠ってしまう前にスライムさんをよろず屋まで連れていった。
でも、もうちょっと雨音を聞いていたいというので、屋根のすぐ近くで、ハンブル……、なんとかをかかげた。
スライムさんはその下で、うっとりするように目をつぶって、すうすう寝息を立てていた。
私もなんだかふしぎな気分だ。
世界に、私とスライムさんしかいないような、そんな気分だった。




