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76 スライムさんと缶詰

「ごはんがない、それって、こまりますよね?」



 よろず屋のカウンターの上でスライムさんが言った。

「え?」

 私は、いまスライムさんがくれた、りんごの味がする薬草を食べようとしたところだった。


「ごはんがない、それって、こまりますよね?」

 スライムさんはもう一回言った。


「あ、うん、困るけど」

「そんなときには、これです!」

「ちょっと待って」

「なんですか、もう!」

「いまスライムさんがくれた薬草を食べたいんだけど」

「あ、どうぞどうぞ」


 私は薬草を食べた。

「ん! 本当にりんごの味がする!」

「そうでしょう!」

「うん!」

「ですが、実はちがうんです」

「どういうこと?」

「じつは、これは、りんごのかおりがするだけなのです!」

「でも、りんごの味がするよ?」


 私が言うとスライムさんは、ふっふっふ、よゆうたっぷりに笑った。


「かおりというのは、とても、あじに、つよいえいきょうがあるものなのです……。りんごのかおりがして、あまいあじがすると、つい、りんごのあじがするように、おもってしまうのです……。にんげんとは、おもしろいものですねえ……」

「へえ、そうなんだ」


 もう一回食べてみる。

 やっぱりりんごの味がするような気がする。


「不思議だね」

「そうですね!」

「それじゃあ、今日はこのへんで……」

「はい! きをつけて、おかえりください! ……じゃないですよ!」


 スライムさんが、ぴょん、とはねた。


「ごはんがないとこまるって、いってるじゃないですか!」

 スライムさんがぴょぴょぴょん、とはねる。


「困るけど、どうしたの」

「ふっふっふ。これです」


 スライムさんが、きりっとした顔になった。


 カウンターの端にあったものを持ってきた。

「これです!」

「なにこれ」


 銀色の、金属で、短い柱みたいな形をしたものだった。

 もちろん大きさは柱よりもずっと小さくて、大きいコップくらいかな。


「これは、かんづめです!」

「かんづめ?」

「かんに、たべものがつまっています!」

「缶に? どうして?」

「とても、とてもながいきかん、たべものをほぞんしておくことができるのです!」


 スライムさんは胸を張って言った。

 胸はないけれども。


「くさったりしないってこと?」

「そうです!」

「どれくらいの間?」

「それは、すごいですよ! ねんたんいです!」

「年単位?」

「この、さかながはいっているかんは、3ねんかん、もちますよ!」

「ええ!?」


 私はあらためて、かんづめ、を見た。

「魚が……?」

「そうです!」

「3年も……?」

「そうです!」

「それは……、中に入れてからは、くさらないけど、実は最初からくさってるっていう、なぞなぞみたいな話……?」

「ちがいますよ! いっぱんてきな、おいしくたべられる、おさかなです!」

「その魚は、なんていう名前?」

「それはちょっと……。ぼくは、さかなにくわしくないので……。ただ、いっぱんてきだと、きいています!」

「そう」


 スライムさんは魚だという。

 では、魚ではない可能性も……?


「たべてみますか!」

「え、ちょっとこわいな……」

「へいきですよ! いっぱんてきですから!」

「お腹空いてないし……」

「なら、みるだけならどうですか!」

「見るだけ? まあ、それなら」

「はい!」


 私とスライムさんは、缶を見た。


「これをあけます! かんきり、という、かんをきる、せんようのどうぐがあります!」

「へえ」

 私が思っていたよりも、もっと広まっているものなのかもしれない。


「どういうやつ?」

「それはわかりません」

「え?」

「まだ、みたことがないので。もしかしたら、そろそろ、にゅうかできるかもしれませんけど」

「缶詰だけ買ったの?」

「そうです! にゅうかびの、しょうさい、ふめいでしたが、まちきれませんでした!」


 スライムさんは、なぜかほこらしげだった。


「それなら、どうやってあけるの?」

「それは、どうとでもなります! まじんのけんとかで!」

「また今度開けようか」

「え? すいりゅうのやり、でもできますよ!」

「……それって、すごいことにならない?」

「なります! かんづめなんて、ふっとばしてやります!」


 スライムさんは、やってやります! と意気込んだ。


「えっと、また今度にしようか」

「どうしてですか! あ、えいむさん、まだかんづめを、しんようしていないんですね!」

「えっと……、あ、私、缶切りで開けるところが見たいなあ!」

「え?」

「缶詰なんだから、缶切りで開くところが見たいの。だから、今日はまだ早いかなあ」

「なるほど。もっともですね!」

「でしょ?」

「はい! じゃあ、今日は、すいりゅうのやり、であそびましょう!」

「薬草の話をしようか」

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