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75 スライムさんと苦い薬草

「あれ?」


 よろず屋の看板は、おやすみ、となっていた。

 今日は定休日だろうか。


 いったん帰って、また様子を見に来ようか。

 そう思いはじめたとき、お店の裏で物音がした。


 まわりこんでみると。

「スライムさん」

「あ、えいむさん。こんにちは!」


 スライムさんが、倒れたバケツの前にいた。


「どうかしたの?」

「ばけつについて、かんがえていました」

「なにを?」

「ばけつは、よこが、ななめですよね?」

「え? ああ、そうだね」


 そんなに極端に差があるわけじゃないけど、上の方が広くなっていて、底のほうがせまい。

 横から見ると台形だ。


「これが、ちゃんと、まっすぐだったら、たおれてしまったとしても、ころがしていくことができます。しかし、よこがななめだと、ころがしたとき、まっすぐすすみません。そればかりか、ぐるっとまわって、もどってきてしまうことでしょう。これは、なんということか!」

「倒れたバケツを起こすのがめんどうなの?」

「そんなことはありません!」

「私が持って行こうか?」

「よろしくおねがいします!」


 私がバケツを持つと、スライムさんはぴょこぴょこついてくる。

 行き先はお店の裏にある、薬草畑だ。


「いっぱいできてるね」

「そうでしょう! じきですからね!」

「時期なの?」

「そうです! このじきは、やくそうが、げんきです!」

「ふうん」


 言われてみると、緑があざやかに見える。

 でも天気がいい日が続いたら、元気な気もする。


「このあたりのやくそうを、しゅうかくしましょう!」

「わかった」

「てつだってくれたら、あとで、げんきんか、おいしいものを、あげます!」

「おいしいものがいい」

「はい!」


 私は薬草を抜いてみた。

「あれ?」

「どうしましたか」

「なんだか、虫に食われてる」

「いけませんね!」


 スライムさんがぴょんぴょんはねた。

「このあたり、ほとんどむしにくわれてます! いけませんね、いけませんね!」

 ぴょんぴょん、ぴょんぴょん!


「いつもはどうなの?」

「こんかいはとくべつに、おたかいひりょうを、たらふくあげてみました!」

「だから食べられちゃったのかもね」

「ほどほどにします……」

「そうだね」

 私は言いながら、ちょっと離れたところにある薬草が気になった。


 そこに行ってみると、そこの薬草は食われていない。

「スライムさん、この薬草は?」

「ああ、そのやくそうは、ちょっと」

「ちょっと?」

「たべてみたらわかります」

「ふうん?」


 ちょっとちぎって、食べてみる。

 口の中に苦味が広がった。

「ん!」

「そのやくそうは、おいしくないんですよ。だから、むしもたべません」

「そうなんだ……」

「だから、それは、いりません!」

「薬草の効果もないの?」

「あります! でも、どんなふうにつかっても、にがいし、すりつぶしたりすると、へんなにおいもします! それがはえてきたら、しゅうかくもしないで、ほうっておきます!」

「もったいないような気もするけど」

「もったいない?」


 スライムさんが、ぎょっとしたような顔をした。


「えいむさん、そういうしゅみが……?」

「だって、薬草の効果もあって、虫に食われないんでしょ? 苦いけど、食べられないほどじゃないし。もしかしたら、この薬草のほうが欲しい人もいるかもしれない」

「そんなひと、いますか?」

「お店に置いてみたら?」


 スライムさんが、うーん、とうなる。

「じゃあ、おみせにおいてみてもいいですけど……。もし、うれなかったら、えいむさんには、なにか、やってもらいますよ!」

「え?」

「ぼくは、ちゃんと、きちんと、よろずやをしているのに、むだなすぺーすは、いけませんので!」


 そんなにちゃんとやってたっけ? と言おうとして、思いとどまった。

 いろいろやってるもんね。


「じゃあ、売れなかったら、私はなにをすればいいの?」

「ぼくと、げーむをします」

「ゲーム?」

「おいしいやくそうと、にがいやくそうをまぜて、たべるげーむです」

「うん?」


「にがいやくそうををたべたらまけです!」

「なるほど」

「でも、にがくない、というかおをできたら、せーふです」

「顔を、がんばればいいんだね」

「はい!」


「それをやらなきゃいけないの?」

「そうです! きびしいばつですよ!」

「わかった。きびしいけど、やる」

「いいかくごです!」


 虫に食われない薬草、と書いてお店にならべたら、数日経ったら売れるようになった。

 山に何日か泊まらなければならない人に喜ばれていた。



 でも結局。

「スライムさんの番だよ」

「はい! もぐもぐ……、うー!」

「あれ? スライムさん、苦い薬草食べたんじゃない?」

「に、にがくないですー! ううう」

「じゃあ私の番。あ、おいしい」

「えいむさんばっかりずるいです!」

 なぞのゲームは、やった。

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