74 スライムさんと徹夜明け
「こんにちは」
よろず屋に入ると、スライムさんがいつものように元気な……。
あれ?
スライムさんは、カウンターの上で遠くを見ていた。
「スライムさん?」
スライムさんは、私を見て、きりっ、と顔を作った。
「はっ。いらっしゃいませ! えいむさん!」
「どうかしたの?」
「べつに、どうってことはないんですけどね。あー、でも、きのうから、ぜんぜん、ねてないから、ちょっとだけ、ちゅういりょくが、おちてしまいましたねえ」
「寝てないの?」
「そうですねえ。ちょっと、てつやをしてしまいましたねえ」
「徹夜。すごい」
「そうですかねえ。ぼくとしては、ぜんぜん、ふつうですけどねえ」
スライムさんは、すました顔をした。
「きのうから、おみせのことをやっていたら、ついつい、てつやをしてしまいました。ぼくは、すごいほうのすらいむなので、ついつい、てつやができてしまうんですよねえ」
「そうなんだね」
「ぼくとしては、ふつうですけどねえ。もしかしたら、すごいことかもしれませんねえ。すごいことかも、しれません、ねえ……」
スライムさんは、さらにすました顔になった。
「眠くならないの?」
「ぜんぜん、へいきですねえ。えいむさんは、ねむくなりますか?」
「夜は、すぐ眠くなっちゃうよ」
「まあ、えいむさんは、こどもですからね」
スライムさんは、にっこり笑った。
「ではいらっしゃいませ! きょうは、どんなごようですか?」
「えっとね。今日は薬草を買いに来たの。ふたつくださいな」
「……」
「? スライムさん?」
スライムさんは、遠くを見ていた。
「スライムさん?」
「はっ。あ、なんですかえいむさん」
「えっと、薬草をふたつ、買いに来たんだけど」
「はいはいやくそうですね」
スライムさんは、ならんでいる薬草をカウンターの上に持ってきた。
「ひとつ7ごーるどで……」
「……?」
スライムさんが動かなくなってしまった。
すー、すー、という音が聞こえてくる。
目は開いてるけど。
「スライムさん?」
私は、スライムさんの目の前で、声をかけた。
「わっ!」
スライムさんがぴょん、と離れる。
「ななな! えいむさんは、しゅんかんいどうできるんですか?」
「瞬間移動?」
「はい!」
どういうことだろう。
と考えていたら、スライムさんがまた動かなくなった。
すー、すー、という音。
そうか。
私は、五歩くらい離れた。
そこで呼ぶ。
「スライムさーん!」
「? わっ! えいむさん、いつのまに!」
なるほど。
スライムさんが寝てる間に移動すると、瞬間移動したように見えるんだ。
「えいむさん、また、しゅんかんいどうをしましたね!」
「ふっふっふ。すごいでしょう」
「すごいです!」
「ふっふっふ」
「えいむさん、ぼくにも、しゅんかんいどうを、おしえてください!」
「え?」
「ぼくもしゅんかんいどう、したいです!」
「ええっと、ねえ……」
私はしばらく無言でスライムさんを見た。
……すー、すー、すー。
寝息が始まったので、私は薬草をもらって、カウンターの上に14ゴールドの代金を置いた。
それから入り口まで離れた。
「……スライムさーん!」
呼んだらびくっ、とスライムさんが震えて、こっちを向いた。
「えいむさん! また!」
「薬草もらったから、また来るね」
私は薬草を振った。
「えいむさん! それは、どろぼうですよ!」
「お金はそこにあるよ!」
「ある! あります! すごい!」
「じゃあね!」
「えいむさーん! しゅんかんいどう! おしえてくださーい!」




