69 スライムさんとお店の範囲
道を歩いていると、よろず屋の前にはスライムさんがいるのが見えた。
私が手を振ったら、スライムさんもぴょんぴょんと、応答してくれた。
それだけじゃなくて、ぴょぴょぴょぴょ、と走ってくる。
「えいむさーん、いらっしゃいませー!」
私の前で、ぴたっ、と止まった。
「こんにちは。ずいぶん早い、いらっしゃいませだね」
よろず屋からは、ちょっと離れてしまった。
「そこです!」
びしっ、とスライムさんが三角形になった。
そのとがった部分で私を指していた。
「どこ?」
「ぼくはかんがえました。そしてあきらめました」
「なにを?」
「おみせは、どこまでがおみせなのか、です」
私は、道を行った先にあるよろず屋を見た。
「あそこ」
「ちがいます!」
「ちがうの?」
「ちがいません! あれはぼくのおみせです! ああもう! これだから、えいむさんはえいむさんなんですよ!」
「えっと?」
「ちょっときてください!」
私とスライムさんは、よろず屋の前まで行った。
「いいですか? ……いらっしゃいませ!」
スライムさんは、お店の中から言った。
「なにか、おかしかったですか?」
「ううん」
「では」
スライムさんは、入り口の前まで出てきた。
「いらっしゃいませ! これは、おかしいですか?」
「ううん」
スライムさんは、なにを言いたいのだろう。
スライムさんは、私にもうちょっとさがるように言った。
結局、二十歩くらい、お店から離れた。
「いらっしゃいませ! これは、へんですか?」
「変っていうか。ちょっと、早いかな。お店から離れてるし」
「それです!」
「え?」
「ぼくが、おみせのそとであいさつをしたときは、もう、おみせのなかじゃなかった! なのに、へんじゃなかった! ここまではなれたら、へんになった! じゃあ、おみせは、どこまでなんですか! ぼくのおみせは、どこにあるんですか!」
「あそこにあるよ」
私はよろず屋を指した。
「そういうことじゃありません!」
「うん」
もちろんわかってる。
わかってるけどわからない。
たしかに、スライムさんが言うとおり、お店の外でいらっしゃい、というのは変かもしれない。
でも変じゃないような気もする。
「ぼくは、よろずやがどこまでなのかがわからないなら、どうしたらいいか……」
「気にしないで、いままでどおりやればいいと思うけど」
「そんないいかげんなことでいいとおもってるんですか!」
スライムさんは言う。
「えいむさん! もっと、きちっと、しなければいけませんよ!」
「えっと……?」
「わるいことをしたら、あやまるんです!」
「ごめんなさい」
「すなおでよろしい!」
「でも、どうして急にそんなことを考えたの?」
「こほん。それはですね。さっきぼくは、えいむさんがもうすぐくるんじゃないかとおもって、おいしいやくそうをよういしていました」
「ありがとう」
「でも、ただあげるよりも、ちょっとびっくりさせたほうがおもしろいとおもったんです!」
「……それで?」
「そとにでて、えいむさんの、うしろをついていって、おみせにはいったとたん、うしろからこえをかけたら、びっくりするとおもったんです!」
楽しげなスライムさんの表情がくもった。
「でも、ぼくはおもいました。これは、えいむさんを、ぼくのおみせでおどかしているのだろうか。ぼくのおみせでえいむさんをおどかすならいいですけど、そとで、えいむさんをおどかすのは、わるいことをしているんじゃないかと。ぼくは、そうかんがえたのです……」
「なるほど」
私は腕組みをした。
「スライムさんは、私をおどかすなら、自分のお店の中じゃないといけないと思ったんだ」
「そうです」
「それなら、私には、ふたつ、言いたいことがあります」
「なんですか?」
スライムさんは私を見上げた。
「まず、どこであいさつをしても、スライムさんのお店は、あそこだと思う」
私はよろず屋を指した。
「あいさつを早めにしただけで、お店の場所は変わったりしないと思うよ」
「なるほど……。ぼくのおみせは、かわらない!」
「うん」
「やりました!」
スライムさんは、ぴょんぴょんした。
「あと、スライムさん?」
「なんですか?」
「私をおどかそうとしたんだよね?」
「はい」
「悪いことをしようとしたんだよね」
「……おや?」
「したんだよね?」
「……はい」
「悪いことをしたら?」
「ごめんなさい」
「すなおでよろしい!」
私が笑うと、スライムさんも笑った。
それからスライムさんの笑いが引っこんだ。
「でも、ぼくはまだ、わるいことをしてませんよね……? わるいことをしようとしたばあいは、あやまったほうが、いいんですかね……?」
「うーん……?」
今度は、私もしばらく考えることになった。




