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50 スライムさんと紫のナイフ

「今日はそろそろ帰るね」


 私がよろず屋の外に出ると、スライムさんも見送りに出てきてくれた。

「ゆうひが、しずみましたね」

 太陽はもう姿を隠して、空は、オレンジや紫や青や、いろいろな色が見えた。


「ぼくは、あのむらさきがすきですね」

「きれいだね」

「じつは、このじかんのけしきは、とくべつななまえがついてるんです」

「なんていうの?」

「……なんとか、かんとかー、です!」

 スライムさんは、はっきりと言った。


「そういえばえいむさん。むらさきといえば、むらさきのないふ、ってしってますか?」

「紫のナイフ? 知らない」

「そうですか。ゆうめいだと、おもったのですけれども」

「どういうナイフ?」


 私は刃が紫色のナイフを想像した。

 透き通っていて、反対側が見えるくらいだったらきれいだと思う。


「どういうないふかは、しりませんが、とくべつなおはなしがあるのです」

「ふうん?」

「むらさきのないふ、ということばを、20さいまでおぼえていると、たんじょうびに、しんでしまう、というおはなしがあるんです」

「え?」

「もし、きいてしまったら、20さいまでにわすれないと、たいへんなことになるんですよ」

「……スライムさん?」

「なんですか」

「なんで言ったの?」

「……?」

「私が20歳まで覚えてたら、死んじゃうんでしょ」


 そこまで言ってようやく、スライムさんは、はっとした顔をした。

 それからみるみる顔を青く……、もともと青いけれども、青い顔をしているような顔をした。


「え、え、えいむさん! すみませんでした! ぼくは、ぼくはそういうつもりでは……!」

「まだ20歳までは時間があるけど」

「すみませんでした!」

 スライムさんは床にうつぶせに寝っ転がった。

 極限まで頭を下げている、最大級の謝罪なのかもしれない。


「いいよ」

「よくないですよ!」

「それを忘れたらいいんでしょ?」

「そうですけど、そういうものほど、わすれられないんですよねえ……。ついつい、いつも、かんがえてしまうんですよねえ……」

 うんうん、とスライムさんが言う。


「……スライムさん?」

「はっ! す、すみません! ぼくは、なんということを……!」

「まあ、いいから。がんばって忘れるよ」

「じゃあ、がんばってください! むらさきのないふですよ! むらさきのないふですからね!」

「ちょっとスライムさん?」

「ああ、ぼくはまた……!」


 私は床に寝っ転がっているスライムさんに見送られ、その日は帰った。

 考えなければいいだけだからね。



 そう思っていると考えてしまうものだ。


 私はよろず屋を出てから、紫のナイフのことを考えなかったことは、なかったといってもいいくらいだった。

 見たこともない紫のナイフと、それにまつわる話。

『そういうものほど、わすれられないんですよねえ……』

 スライムさんの声が聞こえてくるかのようだった。



 翌日、私はよろず屋に向かった。

「こんにちは」

「あ、いらっしゃいませえいむさん!」

「どうも……」

 私が紫のナイフについて話そうか迷っていたら、スライムさんから話を始めた。

「えいむさん、むらさきのないふ、のこと、おぼえてますか?」


「ちょっとスライムさん?」

「いえいえ、いいんですよ! じつは、むらさきのないふ、はなにも、かんけいなかったんです!」

「どういうこと?」

「ぼくのおもいちがいでした! ほんとうは、むらさきのけん、でした!」

「紫の剣。でもそれ、私に言ったら、また同じなんじゃないの?」

 私が抗議したけれど、スライムさんは余裕たっぷりだった。


「ふっふっふ。それがですね。もんだいを、なしにするほうほうが、あるんです!」

「そんな都合のいい方法が?」

「あるんです!」

「でも、お高いんでしょう?」

 スライムさんの解決策はたいてい高額だ。


「むりょうです! あることばを、いっしょにおぼえるだけでいいんです! そうするだけで、むらさきのけん、のこうかは、げきげんします! なくなるといってもいいくらいです!」

「なくなりはしないの?」

「じゃあ、なくなります!」

 なくなるのか。


「スライムさん、それで?」

「なんですか?」

「なんていう言葉?」

「はい、それは……」

 スライムさんは動きを止めた。

 まさか、と思いつつ、私はスライムさんをじっと見た。


 私は心で念じる。

 まさか、忘れたわけじゃないよね?


 スライムさんが心で念じた気がする。

 まさか! おぼえてますよ!


 私は念じる。

 じゃあ、なんていう言葉?


 スライムさんが念じた気がする。

 ………………………………やくそうでも、たべますか?


 私はじっとだまって、スライムさんに念を送っていた。

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