425 スライムさんとピンポンダッシュ
私が、転がって落ちたものを拾いに入口まで行って、もどってきたときだった。
スライムさんがふと言った。
「ぴんぽんだっしゅ、ってしってますか?」
「ピンポンダッシュ?」
「はい。いりぐちの、ぴんぽんをおして、はしるもの、らしいです」
私は考えた。
「入り口のピンポンってなに?」
「わかりません」
私たちは考える。
「押すってことは、動くものだよね」
「はい」
「それが入り口にある……。スライムさんは、こころあたりはある?」
「わかりません!」
スライムさんは元気に言った。
「でも、どこのいえにも、あるそうです!」
「入り口で動くものっていうと、なんだろう」
私は、お店の入り口を見回してみた。
「……ドア?」
どこの家にもあって、動かせるもの、そして入り口にある。
この条件を満たすもの。
「すなわちドアである! どう?」
「かんぺきです!」
スライムさんは絶賛してくれた。
「とすると、ドアがピンポン、ってことになるよね」
「はい!」
「ドアを押して走るってことでいいよね?」
「はい! かなり、なぞがとけそうですね!」
スライムさんはわくわくしているようだった。
「でも、ドアを押して走るってどういうことだろう」
ふつうは、ドアを押して開ける場合は歩く。走ったらドアにぶつかってしまう。
じゃあ、全部押して開けてから走るのだろうか。どちらにしても、家の中に向かって走ることになるけれど。
もちろん、外に走ることもできるけれど、ドアを押して外に走っても意味がない気がする。
私はそこまでスライムさんに伝える。
「じゃあ、いえのなかに、はいるんですね!」
「そうなるね」
「なんでしょうね?」
「うーん。スライムさんがピンポンダッシュのことを聞いたとき、なにか他に聞いた?」
「あんまり、ほかのひとに、はなすようなことじゃないっていってたような、きがします!」
「人に言わないこと」
「でも、なかがいいひとには、いうこともあるっていってました! もりあがることも、あるそうです!」
「盛り上がることもある……?」
私はすっかりわからなくなって、それからスライムさんと別の話をしてすごした。
お店を出ると、薄暗くなってきていた。
寒くなってきていたので急ぎ足で帰る途中、トイレに行きたくなった。
それでも家の近くまで来ていたので、さらに早足で帰って、無事に間に合った。
そのときだった。
ドアを押し開け、家の中に走るように入っていく自分の姿を私は、上の方から見ているような気になった。
これだろうか。
これが、ピンポンダッシュだろうか。
人に言うような話ではないけれど、仲のいい相手だったら、危なかったと盛り上がることもあるかもしれない。
確信のようなものを持ったけれど、でも、スライムさんにはどう言おうかちょっと迷う。
仲がいい相手でも、私はちょっと言うかどうか迷ってしまう。
じゃあちがうのだろうか。
私は一瞬止まったような時間の中でそんなことを考えた。




