421 スライムさんと半分犬
「はんぶんのいぬを、しいれたんですけど、みたいですか?」
スライムさんが急にそんなことを言うので、見せてもらうことにした。
奥から、スライムさんが半分の犬を連れてもどってくる。
「これが半分犬?」
スライムさんが出してくれたのは、金属の板の下から4つの脚が生えているものだった。
脚は金属でできていて、小刻みにチャカチャカと足ぶみをしている。
「犬の下半分ってこと?」
「そういうことです!」
頭や、背中や、しっぽといった部分はなくなって、脚だけが残されている。
「これを考えた人は、犬をなんだと思ってるのかな?」
「どういうことですか?」
「頭とか、体とか、しっぽとか、犬っぽいところは全部なくなってる気がするから」
「そういわれると、そうですね……」
この犬をつくった人がもし、人間をつくったとしたら、下半身だけなのだろうか。
それとも、手足だけかもしれない。変な考え方だ。
それはおかしい気もするけど、なんだかおかしくないような気もする。
人間の、共通点を取り出している、とでもいうのか……。
人間、をつくるのだとしたら、頭をつくってしまったら、誰か、になってしまうけど、そうしないほうが、人間、をつくっていることになるのではないか……。
「うっ……」
「えいむさん!?」
私は気が遠くなりかけていた。
「はっ。スライムさん?」
「どうしたんですか! たおれそうになってましたよ!」
「ちょっと頭を使いすぎたかもしれない」
よろけて、半分犬にぶつかってしまった。
こてん、と転んだ半分犬だったが、すぐ立ち上がった。
「わっ、自分で立てるんだね」
「そうです! いぬですから!」
たしかに、犬は転んでも立ち上がるのが上手そうだ。
私はちょっと押してみた。
よたよた、となったけれどまた、チャキチャキ、と足ぶみを始めた。
「えい」
スライムさんも軽くぶつかった。
よたよた、となった半分犬は転んだけれど、また足ぶみをする。
「すごいね」
「はい!」
「でも、あんまりやると、なんかかわいそうだね」
「はい!」
「あとやっぱり、頭がないと、ちょっと犬っぽくないね」
「はい! ……えい」
スライムさんが、ぴょん、と半分犬に飛び乗った。
ぐらぐら、としたけれど、犬はなんとか転ばず、スライムさんもこらえきった。
「スライムさん!?」
「ふふ。これで、いぬっぽいでしょう!」
たしかに、頭がスライムさんの犬っぽい。ちょっと体は平べったいけれど。
スライム犬さんは、歩きはじめた。
とことことお店の外に出る。
私も出た。
「スライムさん? あやつってるの?」
「そのようですね」
スライム犬さんが走り始めた。
ぐん、と加速し、あっという間に引き離されてしまう。
スライム犬さんは草原を走り抜け、道を曲がってすごい速さでどこかへ行ってしまった。
私は見送って、しばらくその場にいたけれど、帰ってこないので、お店の中にもどった。
風が冷たかったこともあるけれど、お店を放っておいたらまずい気がしたのだ。
外がうすぐらくなってきて、私が不安になってきたころだった。
「こんにちは」
お店に男の人が顔を出した。お客さんだろうか。
「すみません、スライムさんはいま、いないんです」
「いや、これは、スライムさんだよね」
男の人はひもを引くと、スライム犬さんが入ってきた。
スライムさんの根元というのだろうか。ちょうど、スライム犬さんとしては、首輪のような位置に、首輪が取りつけられていて、男の人はそのひもを引いていた。
「スライムさん!」
「はっ、はっ、はっ」
スライムさんは荒い呼吸をしていた。
聞くと、男の人はこのお店を何度か利用したことがあって、こんなものに乗って移動しているのは、よろず屋のスライムさんにちがいないと考え、捕まえて連れてきてくれたのだという。
「ありがとうございます」
「いえいえ。しかしこれは、どういうこと?」
男の人は困ったように言った。
「ええと……」
私はスライム犬さんを見た。
もう、犬になってしまったのだろうか。
そう思って、スライムさんの部分を持ち上げてみた。
とれた。というか、ふつうに持ち上げることができた。
「はっ! あれ? えいむさん?」
腕の中のスライムさんは私を見上げた。
「もう、どこに行ってたの? 心配したよ!」
「しんぱいですか?」
そこまで見て、それじゃあ、と男の人は帰っていった。これで解決したと思えるのだから、やはり、このお店に来たことがあるというのはまちがいなさそうだ。
「あ、そうそう、それ、なんだとおもいますか?」
スライムさんは、半分犬を見た
「半分犬」
「よくわかりましたね!」
スライムさんはにこにこしていた。
私はスライムさんを置いて、犬の上に、そのへんにあった箱をのせた。
「この犬、返品してきて」
「どうしてですか?」
私は近くの椅子に座った。
それから、スライムさんがスライム犬さんになった話をした。二度と乗らないように、ちょっと大げさに話すと、スライムさんは、おどろいたり、笑ったり、ちょっと恥ずかしがったりしていた。




