419 スライムさんとそりたつ壁
それは裏庭でのことだった。
スライムさんがバケツから飛び出してきて、私の背の高さまで到達する、という遊びをしていたとき、スライムさんが着地を失敗して転がった。
ころころと、お店の壁ぎわまで転がっていって、仰向けで見上げている状態で止まった。
「だいじょうぶ?」
「はい!」
でもスライムさんは、起き上がろうとしなかった。
スライムさんは壁を見ているような、屋根を見ているような形で止まっている。
体の下側が壁にくっついた状態で仰向けになっているので、重力の向きが変わったら、そのまま壁を歩けそうな体勢ともいえるかもしれない。
「やっぱり、だいじょうぶじゃない?」
「へいきです! ぼくはいま、そりたつかべを、していました!」
「そりたつ壁?」
「はい!」
そりたつ、というのはどういう意味だったか。
「迫力がある壁、みたいな意味かな?」
「たぶんそうです!」
スライムさんは寝ながら言った。
「迫力があるように見えるってこと?」
私はしゃがんで、壁を見上げてみた。
たしかにさっきまでより高く見えるし、迫ってくるようにも感じられた。
「ふつうに見るより、迫力あるね」
「これが、そりたつかべです!」
「なるほど」
「そして、このみかたにも、なまえがあります!」
「見方に?」
「やまだ、といいます!」
「ヤマダ? それはどういう意味?」
「いみはわかりませんけど、こうして、しずかにみあげて、かべは、たかいなあ……、というきもちになるものです!」
「ふうん」
私は壁を見上げた。
それからその手前の地面を見た。寝っ転がったら、背中に湿った土がついてしまうだろう。ちょっと、ためらってしまう。
「ながの、というのもあるらしいです」
「それは?」
「かべを、すごいはやさでよじのぼることを、ながの、というみたいです」
「そんなことができるの?」
「ながのは、なかなかできないらしいです」
「そうだよね。私はヤマダでいいかな」
「ぼくもやまだでいいです!」
「やりやすいもんね」
「……あの板ってなに?」
私は、壁に立てかけてある板を見つけた。
「にもつといっしょに、とどいた、しきりの、いたです!」
「じゃあ、あれ借りるね」
私は壁の前の土の上に板を置いて、その上に小さくなって仰向けになり、ヤマダをした。
「迫力あるね!」
「はい!」
そうしてスライムさんと一緒に、そりたつ壁を楽しんだ。




