418 スライムさんと太らないクッキー
「なにかたべますか?」
スライムさんは言った。
「今日も薬草をもらえるの? いつも悪いねえ」
「ほっほっほ、ぼくとえいむさんの、なかじゃないですか」
「ありがたいねえ」
「……そうだ、きょうは、ほかのものもありますよ!」
スライムさんは奥にひっこんだ。
もどってきた。
「これです」
スライムさんが出してくれたのは、手のひらにのるくらいの透明な四角い入れ物だった。
中に、茶色い板状のものが三枚入っている。
「クッキー?」
「はい! ふとらない、くっきーです!」
「……私が太ってるって言いたいの?」
私はじっとスライムさんを見た。
「ち、ちがいます! ふとらないなら、いっぱい、すきなだけ、たべられるとおもっただけです!」
「ふーん」
私は口をとがらせた。
「ふつうのクッキーに見えるけど」
私は箱を持ち上げて、天井にかざして見てみてから、カウンターの上にもどした。
それから開けようとするけれど。
「あれ? どこから開けるの?」
箱を開けるために、つなぎ目を探したけれど見つからない。
「それは、ふつうには、あきません!」
「じゃあどうするの?」
「それはですね……」
スライムさんは、手元の紙を見た。
私も見る。
食べても太らないクッキー。
充分に箱を振ると箱が開きます。
食べられるなら太りません。
「なんだか変な文章だね」
「はい!」
「振ればいいのかな」
「そうきいてます!」
「じゃあ」
私は、中のクッキーが割れないよう、おそるおそる箱を振ってみた。
すると想像とちがって、中でなにかがゆれるような感触はなかった。箱のがたつきもない。
まるで一枚の板を振っているみたいに、箱は全部が一体となって、私の手の中にあった。
透明な箱の中にクッキーが置いてあるだけに見えているけれど、透明な部分がクッキーを包むように固定しているのかもしれない。
私はだんだん大きく振った。それでも箱の中はゆれない。
調子に乗って、どんどん大きく振る。
「いいですよえいむさん!」
「まだかな?」
「そうみたいです!」
頭から腰の高さくらいまで振っていたけれど、気づくと、頭の上から、ひざ下まで振っていた。
力も入れて、素早く振った。
それでも箱はまだ開かないようだった。
「これって、どうなったら、開くって、わかるの?」
私は、一回一回しっかり振りながらきいた。
「あくときには、ちょっと、はこがひかるみたいです」
「そうなんだ」
私は箱を大きく振った。
「おっと」
一回、カウンターをかすめて危なかったので、私たちは外に出た。
お店に来る途中、たまに、ちょっと冷たい風が吹いていたことを思い出した。
「さむくないですか?」
「全然!」
箱を振っていると、体がぽかぽかしてきた。
寒さを忘れて箱を振った。振り慣れてくると、だんだんクッキーのことを忘れていった。
家に帰ったら母の手伝いをする約束をしていたことや、夜に雨が降ると父が言っていたことなどを思い出した。
私が熱心に箱を振っていると、スライムさんが私の名前を呼んだ。
「えいむさん!」
「なに?」
「ひかってます!」
見ると箱がぼんやり光っていた。
私は箱を見ることなどすっかり忘れていた。
深呼吸をして、息を整えた。
「開けてみるね」
「はい!」
やはり箱のつなぎ目はよくわからなかったけれど、開けるつもりで力を入れたら、ふたが開いた。
中には、クッキーが三枚入っていた。
「じゃあ、はい、スライムさん」
私は一枚スライムさんにさしだした。
「いいんですか?」
「スライムさんのものだからね」
「じゃあ、はんぶんずつです!」
「いいの?」
「もちろんです!」
「じゃあ」
と私は箱をいったん草の上に置いて、クッキーを割り、スライムさんと一緒に口に入れた。
「ん?」
「ん?」
食べてみると……。
「あんまりあまくないね」
「はい」
「あと、バターなんかも、あんまり使ってなさそう」
「そうですね」
「でも……」
私はクッキーをよく見た。
「どうかしましたか?」
「やっぱり、クッキーだから、太らないっていうのは言いすぎだよね?」
「そうですねえ」
それなりにあまいし、食感もクッキーだ。
などと言いつつ、体を動かしたばかりのせいか、私はたちまち二枚目に口をつけていた。
「でも、慣れてくるとおいしいかもしれない」
「よかったです!」
「運動したからおいしいのかな?」
「うんどうすれば、なんでも、おいしい……?」
スライムさんは遠くを見た。
「発見だね」
「はい!」
「おっと。汗が冷えそうだから、中にもどろうか」
「はい!」
私たちは箱を持ってお店の中にもどって、あたたかいお茶を飲んだ。




