414 スライムさんと駅伝
私がお店に近づいていくと、スライムさんが出てきた。
「あ、こんにちはスライムさん」
「こんにちは!」
スライムさんがぴょこぴょこやってきた。
「どこか行くの?」
「ちょっとりょこうに」
「えっ? 旅行?」
「はい!」
「どこまで行くの?」
しばらく留守にするのだろうか。
「うらにわです!」
「裏庭……? ずいぶん近いね」
「えいむさん。りょこうは、きょりじゃ、ないですよ!」
スライムさんは、きりっ、とした。
「たしかにそうだね。遠くに行ったら、いい旅行っていうわけじゃないもんね」
「はい!」
「私も一緒に旅行していい?」
「もちろん! じゃあ、かかせないものを、じゅんびしますね!」
「欠かせないもの?」
私は考えた。
「わかりますか?」
「なんだろう。カバンとか?」
「それもいりますけど……。えきでん、です!」
「エキデン?」
「はい。これは、かかせませんよ」
スライムさんは言った。
「エキデンってなに?」
「おべんとうのことです」
「それがエキデン?」
たしかにお弁当は欠かせないけれども。
「いどうちゅうに、たべると、とくに、おいしいんです!」
「なるほどね」
「ただし、とくべつな、きそくがあります」
「なに?」
「はしりながら、たべることです」
「走りながら!?」
「しかも、こうたいで」
「交代で!?」
どういうことなのだろうか。
「えいむさんの、とまどいは、もっともです。でも、ぼくも、とまどいました」
「さすがのすらいむさんも、とまどったんだね」
「はい!」
「交代で食べる。いったい、どうして……」
そう言いながらも私は、具体的に考えてみることにした。
私たちはいったん、お弁当を作ることにした。
といってもちゃんと作ると大変なので、そのへんにあった箱に、薬草をいくつか入れてみる。
「できたね」
「できました!」
スライムさんは、ぴょん、ととんだ。
「まず、私が食べてみるね」
食べるふりだけれど。
「はい!」
私は薬草をひとつとって口に近づけるだけして、持ったまま、円を描くように草原を走った。
ゆっくり、歩いているみたいな速度だ。それでも、今日の冷たい風をいっそう冷たく感じた。
よろず屋のまわりを一周するくらいの円をひとまわりして、元の場所にもどった。
「はい、スライムさん」
私は持っていた薬草をスライムさんにわたした。
「はい!」
スライムさんは薬草をくわえると、ぴょこぴょこぴょこぴょこと走りはじめた。
私とだいたい同じコースをまわってくる。
「ふい!」
くわえたままの薬草を、私に向けた。
「はい!」
私は薬草を受け取った。
そうして2周ずつして、止まった。
さっきまではすこし寒かったけれど、ちょっとだけ、なんだか体を動かしてもいいような気になってきた。
「ちょっとおもしろいね」
「はい!」
「なにがおもしろいんだろう」
「わかりません!」
私は、私たちをつないだ薬草を見た。
「そういえば、食べなかったね」
「わすれてました!」
「でも、なんだか、これでもよかったような気もするけれど」
「ぼくもです!」
「もうちょっと、エキデンやる?」
「はい!」
私は、息が切れてきて、体がぽかぽかするまで、スライムさんとゆっくり、円を描くように、交代で走った。




