413 スライムさんとシャベル
「えいむさん。これから、あなをほって、そこに、どくけしそうのたね、というのをうえてみようかとおもうんですが」
「手伝おうか?」
「はなしがはやいです! ありがとうございます!」
というわけで、私たちはお店の裏庭の、薬草が生えているところからすこし離れたところに来ていた。
「ためしに、ちょっとだけなので、ちょっとのあな、でいいですよ!」
「薬草から離れたほうがいいの?」
「もし、みわけがつかなくなったら、こまるので!」
「たしかに」
毒消し草は外見がちがったはずだけれど、似ている毒消し草もあったら困る。
「えいむさん、しゃべるで、ほってもらってもいいですか?」
「わかった」
私がシャベルを手に取って、穴を掘ろうとしたところだった。
「えいむさん、それはすこっぷですよ!」
「え?」
私はシャベルを見た。
穴を掘る道具だ。曲面のある板に持ち手がついたような形をしている。先がややとがったような形になっていて、土に刺さりやすい。
手元を掘るのに向いている。
スコップを見る。
基本的にはシャベルと似たような形をしているけれど、もっと大きい。柄が長くて、金属の部分に足を置いて体重をかけて、深くまで土を掘れるようになっている。
「こっちがシャベルでしょう?」
「ええ!?」
スライムさんは、おどろきの声だった。
どうやら私とスライムさんでは、シャベルとスコップの認識が逆のようだ。
「これは、おどろきましたね……」
スライムさんは言った。
「まさか逆とはね」
「はい!」
「どうしてこんなことになったんだろう」
「ぼくは、こっちがしゃべる、こっちがすこっぷとききました!」
「私も、こっちがシャベル、こっちがスコップって聞いた」
「このままだと、しゃべる、いやすこっぷ、などと、なんどもいいなおすことが、よそうされますね……」
「そうだね。なんだか、非常に面倒なことになりそうだよね」
「はい!」
私たちは考えた。
「じゃあ、えいむさんにあわせますね!」
「いいの?」
「はい! えいむさんには、おせわになってますから!」
「そう? ……でも、無理やり言わせると、スライムさんが大変だよね? 言いまちがいそうになっちゃうし」
「それは……! そうですね……!」
「でも、私がスライムさんに合わせても同じだよね」
「それも……! そうですね……!」
「じゃあどうしようか」
「うーん」
私たちは考えた。
「どっちがシャベルっぽいかな?」
「!?」
「どっちが、スコップっぽいかな?」
「!?!? どういうことですか?」
「名前に納得できれば、呼びやすそうかなって思って」
「なるほど!」
スライムさんが、ぴょん、ととんだ。
「しゃべってくれれば、しゃべるです!」
「たしかにね」
私たちはシャベルを見た。
「でも、残念ながら、しゃべってくれないようだね」
「おしいですね……!」
「そうだ。これはどう?」
私は、スコップを地面に差して、足をのせて体重をかけると、深く差さる。
「えいむさんは、たいじゅうが、おおい……?」
「スライムさんも、うめちゃうぞ?」
私はにっこり笑った。
スライムさんがプルプルしている。
「そうじゃなくて、ほら」
私は埋まったスコップの柄に体重をかけた。シーソーのように金属の側が上がって、土が外に。
たくさん土を掘り出せた。
「なんですか?」
「スコップって、スコップ! って大きく地面に差して掘り出す感じがしない?」
「!? たしかに!」
「シャベルって、小さく、シャベル、シャベル、って小さく動かす感じがしない?」
「します! しゃべるです!」
「ということで、大きいほうがスコップ、小さい方がシャベルでどうかな?」
「きまりました! それで、いきましょう!」
「いいの?」
「はい! こんなにはやく、かいけつするとは! さすがえいむさんですね!」
「へへ。私、やるね?」
「はい! やります!」
「じゃあ、勢いに乗って、土を掘っちゃうね!」
「……」
スライムさんが、ぴたりと止まった。
「どうかした?」
「つちと、すなって、なにが、なんなんですか?」
なにがなんなん。
言い方は変だが言っていることはわかる。
私はスコップを置いた。
結局その日は、穴を掘るどころではなくなった。




