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41 スライムさんと洗たくもの

「こんにちは」

 お店に入ると、奥からバケツが転がってきた。

 えっ、と思いながら、ちょっとさがって私は見ていた。

 バケツは、上と下で円の大きさがちがうので、まっすぐに転がらず、くるるる、とゆっくり向きが変わる。

 上がこっちを向いた。


 スライムさんが、中にすっぽり、はまっていた。

「こんにちは!」

「スライムさん! どうしたの」

「ちょっと、れんしゅうです」

 すぽんっ、とスライムさんがバケツから出てきた。


「ほんじつは、おあしもとがわるいなか、わざわざおこしくださいまして」

「雨、降ってないよ」

「おしかったですね」

「いまにも降りそうだけど」

「ふるなら、ふってほしいですよね」

「お母さんは降ってほしくないみたい」

「あめは、おきらいですか?」

「ほら、ずっと雨ばっかりで、洗たくものが、すっきりしないから」

 ここ数日、母が、家の中にかけた物干しざおを見て、よくため息をついている。


「家の中で干すと、洗たくものが、ちょっと変なにおいになったりするでしょ?」

「はあ……」

 スライムさんは、あまりぴんときていないようだった。

「……そうか、スライムさん、服、着ないもんね」

 つい、誰でも実感を持ってくれることだと思っていたけれども、スライムさんはそういう生活をしていないんだ。


「服を着ないならわからないか」

「む! あなどらないでください! ぼくだって、ふくくらい、きますよ!」

「着るの?」

「このまえ、みずぎを、きたじゃないですか!」

「ああ」

 よろいのような、金属の。


「もっとこういう、布のやつの話だよ」

 私は自分の服をつまんでみせた。

「よわそうなので、ぼくのしゅみではないですね!」

「弱そうかな」

 私は自分の服を見た。

 いや弱そうってなに?


「えいむさんも、ふくが、へんなにおいだったら、いやですか?」

「それはそうだよ」

「だったら、どうして、ふくをきてるんですか?」

「え?」

「きなかったら、せんたくで、こまることはなくなりますよ!」

 そんなこと言われるなんて思わなかった。

 言われてみると、そうだけど、でも。


「えっと、でも、服を着ないと……」

「だめですか?」

「寒いときとか……」

「きょうはさむいですか?」

「そんなことはないけど」

 この数日は、寒い日、暑い日が混ざり合ってやってきていた。

 今日は、じめじめとして、どちらかといえば暑い。


「それなら、きなくてもへいきですね!」

「えっと、あと、恥ずかしいかな……」

「はずかしい?」

「服を着ないと全部見えちゃうし……」

「ふくをきないのは、はずかしいことなんですか?」

 スライムさんは、ささっ、とバケツの後ろに隠れた。


「あ、スライムさんはいいんだよ。見えてても」

「む! えいむさん! すらいむを、さべつしましたね! すらいむなんて、ふくをきることもできない、つまらないまものだと、おもいましたね!」

「そんなこと言ってないでしょ。差別っていうか、スライムさん、恥ずかしくないんでしょ?」

「はい」

「無理に恥ずかしがらなくていいんだよ」

「そうなんですか? まったくもう、えいむさんがいろいろいうから、いそがしいですねえ」

 スライムさんは出てきた。

 スライムさんは、はだかというか、体も透けているので、またちょっとちがうと思う。


「なんかごめんね」

「ゆるしましょう!」

「私たちは、もう、服を着てるのがあたりまえになってるから、寒くなくても服を着るの」

「なるほど……」

 スライムさんが動きを止めて、じっとしていた。


「どうかした?」

「……つまり、はずかしくなければ、えいむさんも、ふくをきなくてもいいのですか……?」

「まあ、そうかな?」

「なるほど……。なるほど……」

 スライムさんは、ぴょこぴょこと、カウンターの後ろへ消えた。


「スライムさん?」

 ごそごそという音だけが聞こえている。


 それから、スライムさんが小箱を頭にのせてもどってきた。

「これをつかってください!」

「なにこれ」

 私の手のひらにのるくらいの、木の箱だった。

 中には、石かなにか入っているような、ちょっと重みを感じる。


「あけたら、びっくりしますよ!」

「開けていいの?」

「どうぞ!」

 箱を開けてみる。


「わっ!」

 とたんに、まぶしい光がよろず屋いっぱいに広がった。

 見ていられずに目を閉じるけれども、まだまぶしい。


「まぶしい! どうなってるのこれ!」

「これは、ものすごくまぶしい、いしです!」

「まぶしいよ!」

「これで、からだがみえなくなります! ふくをきなくても、はずかしくないですよ!」

「そんなことよりまぶしいよ! なんとかして!」

 うっかり箱から手を離して、背中を向けてしまったので箱がどこにあるかわからない。

 それでもまぶしい。

 

「ぼくもまぶしくて、まわりがみえません!」

「ちょっとスライムさん!」

「いしは、いしはどこですか!」

「たしかこのへんに……」

 私が手をのばすと、なにかがぶつかった。

 倒れるような音と、ころころ、と床の上を球体が転がっていくような音がした。


「どっかいっちゃったよスライムさん!」

「えいむさん、しっかりしてください!」

「ごめん!」

「あ!」

 スライムさんの声のあとに、もっと勢いよく転がっていく音が聞こえた。


「うっかりぶつかってしまいました!」

「スライムさん!」

「たいへんもうしわけないきもちで、いっぱいです」

「あーもう、どこ!」

「わっ、えいむさん、ぼくをふまないでください!」

「ごめん!」

「わあっ!」

「きゃっ!」


 よろず屋のあちこちをバタバタとやっていたら、やっと見つけたころには、私の服が洗たくものになってしまった。

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