401 スライムさんとヨロズヤ
「きょうは、うたでもうたってみようかと、おもうんですよ」
スライムさんはカウンターの上でそんなことを言っている。
でも、私は別のことが気になった。
「その格好はなに?」
スライムさんは、白い、長い髪のかつらをかぶっている。
顔を白く塗っていて、目のまわりやほほ、唇に化粧をしていた。
「このうたは、このかっこうが、ふかけつ、なのです!」
「そうなんだ? じゃあ、私は聞いてればいい?」
「はい! それでは、きいてください。よろずや」
すると、どこからともなく、ギュインギューン、という音が聞こえてくる。聞いたこともない音だ。楽器なのだろうか。
スライムさんの近くにある、箱が鳴っているようだ。
スライムさんが目を、かっ、と開く。
「よろずやだぁぁぁぁぁぁー!」
スライムさんが高音の雄叫びを上げた。
すると、別のギュンギュンいっている音や、太鼓のような音がとんでもない早さでズダダダダダ、と叩かれている音も聞こえてきた。
「よろずやだぁぁぁぁぁぁー!」
ズッダンズッダンズッダンズッダンというリズムに、ギュインギュインという楽器の音が、一緒に走るように、どんどん速度を上げていくように流れていた。
私もなんとなく体でリズムをとってしまう。
「まちはずれの、こうやに、たってる、よろずや! うらにわの、はたけから、やくそうを、とってるーいやぁあい!」
スライムさんの高音が響く。
気づけば私は、頭を上下に振っていた。
「おかねの、やりとりは、めんどうくさい! なんとなく、なんとなく、やりとりをしたいー!」
スライムさんの歌は静かに、しかしだんだんと力を増していく。
それに合わせて私が頭を振る力もぐんぐんと入っていく。
「おかねはめんどう! すてたくなるよおー! くるいだーした、おれのたましいー!」
スライムさんの歌が、ゴールに向かって高まっていっているのを感じる。
私も後押しするように大きく頭を振った。
「よろずや! にそーまった! こーのおーれーをー! なーぐさめーるやーつーは! もう! いーなーいー! よろずや! にそーまった! こーのおーれーを! なーぐさめーるやーつーは! もう! いーなーいー! いいぇえええええいい!!!」
スライムさんの高音が最高潮に達したところで、スライムさんは歌うのをやめた。
どこからか流れていた楽器も止まる。
「あれ、終わり?」
「はあ、はあ、はあ、おわりです……」
スライムさんがはあはあしているので、私はスライムさんのかつらをはずして、薬草を食べさせてあげた。
「ほんとうは、もっとながいんですが、たいりょくが、たりませんでした……」
「すごかったよ!」
「そうですか? あと、かしも、べつのきょくと、まざってしまって……」
「スライムさんの歌がすごかったから、全然気にならなかったよ!」
元の曲を知らないし、スライムさんの迫力がすごかった。
「じゃあ、こんどはえいむさんが、やりますか?」
「私は聞くだけでいいかな」
と言いつつ、私が叫びながら歌っている様子を想像して、ちょっと気持ちよさそうな気がした。
「えいむさん、ちょっと、そうぞうしましたね?」
「ぎくり」
「ふふ。いいんですよ、すなおになって……」
「そのうちね?」
私たちは、うふふ、と笑った。




