400 スライムさんと原稿用紙
「なにこれ?」
私はカウンターに置かれている紙の束を見た。
一枚は大きく、マス目がたくさん描かれている。きちんと整列していて曲がっている線は一本もない。
「げんこうようし、です!」
スライムさんは言った。
「原稿の用紙?」
「はい!」
と言ってみたものの、よくわからない。
「なにに使うの?」
「ぶんしょうを、かくのに、つかいます!」
「ふうん……」
私は原稿用紙を見た。
「私は思った。これがなくても書ける、と」
「はい! はい? はい……」
スライムさんは、体をすこしひねった。
「でも、文章を書くのに使うんだよね?」
「そうです!」
「うーん。どういう人が使うのかな」
考えてみる。
「えいむさんは、どうおもいますか?」
「うーん。練習が必要な人かな?」
「れんしゅう、ですか?」
「うん。ほら、ひと文字ずつ書けるでしょう? これだと、なにをどれくらい書こうか、迷わなくなるんじゃないかなあ」
マス目は、1行あたり20あって、それが20行ある。
「苦手な字があっても、きちんとならんでたら、比べて、まちがいがあるかどうか、見つけやすいもんね」
「なるほど! えいむさんは、にがてな、じは、ありませんか?」
「昔はあったかなあ。でももう、私くらいになると、ただの紙でも平気かしらね」
私は髪の毛を手で大げさに払った。
「おお! これは、まだむな、えいむさん!? まだいむさん?」
「私が、まだやってないみたいだね」
「いくらでも、おまちします。ごゆっくりどうぞ」
スライムさんは優雅な笑顔をうかべた。
「スライムさんも、やるね!」
「はい!」
「……あ、でも、ちがうかな?」
「どうかしましたか?」
「マス目があると、文字が何文字あるか、数えやすいよね」
「そうですね!」
「ということは……。決まった文字数を書きたい人には、便利だよね」
私はマス目を数えた。
「20かける20だから、400文字書けるね」
「きまった、もじすうとは?」
「うーん。歌とか?」
歌詞なら、音楽に合わせて決めなければならないから、決まった文字数がいいだろう。
「たしかに! ということは、これは、かしをかくために……?」
「かもしれないけど、ちがうかもしれない」
「またちがうんですか!?」
「お店で、売れたものを書いておくのもいいよね」
薬草とか、剣とか、そういうものを紙に書いておくと、気をつけないと、字がごちゃごちゃしてしまうかもしれない。
でもこれなら、マス目に書けば、気を遣う必要はない。
「いろいろあって、こまりますね!」
「もしかすると、いろんな使い道を楽しむものなのかもしれないね」
「みつけていけると、いいですね!」
「うん。お店の、売上を書くのにも使う?」
「……………………」
スライムさんは、私に笑顔を向けるけれど、全然使うと言わない。
「スライムさん?」
「そうだ! えをかくのにも、つかえそうですよ!」
スライムさんは、いかにもごまかしている、という感じで言った。
でも、絵って?
「絵を?」
「はい! えを、まねしたいとき、ますめ、なんこぶんとか、みえます!」
確かにそうだ。
誰かの絵をまねしたり、景色や物の絵を描くとき、本当なら、定規で測って描いたほうが、再現できるはずだ。
面倒だったり、もしくは、測ったりしないほうが芸術性を感じる、という感覚的なものから、私はそういうことはしてこなかった。
でもこのマス目を使えば、基準があるから、マス目を利用して再現もしやすいだろう。
「字の練習をするのかと思ったら、絵の練習をする話になってきたね」
「なかなか、てびろいです!」
「奥が深かったね」
「はい!」
それから私たちはしばらく、原稿用紙、について話をした。
「なんで400字なんだろうね」
「!? なぞです!」




