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40 スライムさんと町長選

 よろず屋に歩いていくと、スライムさんがお店の前にいた。

 めずらしい。

 キョロキョロとまわりを見ていた。


「こんにちは。どうしたの?」

「なんだか、いそがしそうなひとが、はしっていったので」

「あ、お母さんが言ってたんだけど、もうすぐ町長選挙があるんだって。だからかな」

「せんきょですか?」

「ていっても、立候補する人が他にいないから、いままでと同じ町長さんになるみたいだけど」

「そうなんですか?」

「うん。もうずっと同じ人みたいだよ」

「……それはいけませんね」

 スライムさんは、ぼそり、と言った。


「どうして?」

「おなじちょうちょう……。ふはいです……。せいじの、ふはいです……」

「ふはい?」

 不敗、ということだろうか。

 負けない人、という意味なら、たしかに不敗かもしれないけど。


「けんりょくしゃが、ずっとおなじなのは、ふはいをまねきますよ……」

「不敗はいけないの?」

「いけません! ……きっと、うらでは、わるいことをしています……」

「そんなことないと思うけどなあ。町長さん、いい人そうだったよ」

 ちょっと太っているけれども、いつも笑顔で、私にもちゃんとあいさつをしてくれる。


「うらでわるいひとというのは、おもてでは、いいかおをするものですよ……」

「でも、いい人も表ではいい顔するんでしょ?」

「つまり、おとなは、いいかおをするんです……。そういういきものです……」

「えっと」

 嫌なことでもあったんだろうか。


「スライムさん、町長さんに頼んでこの町に来たんでしょ? そのとき、どんな人だった?」

「いいひとでしたよ! ぼくのことを、さべつ、しませんでしたし!」

「だったら」

「それは、おもてのかおです……。せいじかは、いつでも、うらのかおを、もっているんですよ……」

「でも、そんなこと言ってたら、どんな町長さんでも悪い人になっちゃうよ?」

「そうですね……。それこそ、ぼくがやるしか……」

 スライムさんは、はっとした。


「そうか! ぼくが、りっこうほするしか、ありませんね!」

「ええ!?」

「ぼくが、ちょうちょうになれば、まちのふはいは、とまります!」

 町の不敗?

 ふはいって、不敗じゃないのかな。


「スライムさんが町長になるの?」

「そうです」

「でも、町長さんになるのって、いろいろ大変みたいだよ」

「なにがですか?」

「えっと、たとえば、投票してもらうためにいろいろ説明をしないといけなかったり」

「とうひょう?」

 それは知らないのか。


「そう。みんなに、町長になったらこういうことをする、って説明をして、それならこの人にお願いしようって思ってもらうの。具体的には、一日みんな集まって、町長さんになってほしい人の名前を書いてもらって、一番、数が多い人が町長さんになるのかな。たくさんの人に、町長さんになってほしい、って思ってもらうようにがんばらないと」

「へえー! えいむさん、ものしりですね!」

「そうかな。えへへ」


 スライムさんは、遠くを見た。

「ということは、ぼくを、ちょうちょうさんにしてくれそうなひとに、おかねをくばれば、ぼくに、とうひょうしてもらえますね!」

「ちょっと!」

「なんですか?」

 スライムさんはきょとんとしていた。


「悪いことをしたらいけないって言ったの、スライムさんでしょ!」

「わるいことですか?」

「そうだよ! お金をくばって町長さんになれるなら、お金持ちしか町長さんになれなくなっちゃうでしょ!」

「おかねもちは、わるいことですか?」

「お金持ちが悪いんじゃなくて、お金持ちの悪い人が町長さんになりやすくなっちゃうでしょ!」

「でも、いいおかねもちが、ちょうちょうさんになれるなら、それでいいんですよね?」

「そうだけど……」

「だから、ぼくが、いいちょうちょうさんに、なります!」

 スライムさんはカウンターにのぼった。


「ぼくは、ちょうちょうさんに、なります!」

 もう一回言った。


 スライムさんがなれるのかな、と思ったけど、町に住んでいるということは、町長さんになる権利もあるような気がする。

 うーん?

 でも、スライムさんは、悪い人でもないし、スライムさんに教えてくれる人もいるだろうし、スライムさんも熱意を持ってるみたいだし、もしかして、そんなに悪い町長さんにはならない……?


「スライムさん、本気……?」

「ほんきです!」

「そっか……。じゃあ、私もおうえんしようかな」

 お金をくばらないように、見張っていないと。


「ありがとうございます! すらいむ、すらいむをよろしくおねがいします!」

「なにそれ」

「がんばります!」

「それにスライムさんが町長さんになったら、もしかしたら、よろず屋もきちんとしたお店になるかもしれないしね」

「どうしてですか?」

「ほら、町長さんって、毎日、朝から規則正しく仕事するでしょ?」

 多分。


「だから、よろず屋も、すこし規則正しくできるようになるかもしれないよね」

「えいむさん……。ちょっといいですか?」

「なに?」

「ちょうちょうさんって、しごとを、するんですか……?」

 スライムさんが信じられないことを言った。


「そうだよ。町のために、いろいろなことを」

「きそくただしく、ですか?」

「うん」

「おもてのしごとを、いそがしくやってから、うらのしごとも、いそがしくするんですか……?」

 裏の仕事をしたら悪い町長さんになっちゃうのでは?


「そうですか……」

 スライムさんは、ゆっくりカウンターをおりた。

「スライムさん?」


 スライムさんは、急に大きく目を開いた。

「……あ! あー、ちょっと、これから、いそがしくなるんだったなー! これから、ちょっといそがしくなるんだったなー! ちょうちょうさんを、やっているじかんは、ないんだったー! あーいそがしいいそがしい!」


 スライムさんは、お店の中を行ったり来たりし始めた。

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