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396 スライムさんと鉄オタ


「いらっしゃいませ!」

 スライムさんが、ぴょん、とカウンターに乗った。

 おや?


「こんにちは。これなに?」

 カウンターの上に、金属の小さなかたまりがあった。親指の爪ほどしかない大きさで、いびつな形だった。


「てつです!」

「てつって、鉄?」

「はい!」

「ふうん」

「えいむさん。てつおた、ってしってますか?」

 スライムさんは言った。


「てつおた? なにそれ」

「てつ、がすきなひとみたいです!」

「鉄って、鉄?」

「そのようですね」

「鉄好きってことなのかな」

「おそらく、ふつうにすきというんじゃないことに、よさ、をかんじてるんだと、おもいますね……!」

 スライムさんは言った。


 だいたい私も同じ感想だった。

 単純に好きというより、そのほうが、仲間だという気持ちになれる。そういった考えがあるのではないだろうか。


「好きな人は、家に飾ってるのかな?」

「いろいろ、てつおたの、しゅるいにも、なまえがあるそうです」

「どんな?」

「たとえば。のりてつ!」

「乗り鉄」



 私たちの前には、スライムさんが奥から出してきてくれた鉄板が置いてあった。

 ゆっくり、それに乗る。せっかくなので、靴を脱いで、乗ってみた。

「これが、乗り鉄……!」

「そうですね……!」

「足の裏がひんやりする」

「ぼくのうらも、ひんやりします!」

「このひんやりがいいのかな?」

 暑い日は気持ちよく、寒い日はぞくっとするだろう。


「てつの、よさを、そこでかんじてるんですね!」

「なるほどね」

 かたくて頑丈、というだけでない良さがあるわけか。


「つぎは、とりてつです!」

「とりてつ?」


 鉄を手にとってみたけれど、これはちがうような気がする。

「そうだ」

 私は、棒状の鉄と、その両側に鉄板を置いてみた。


「ちょっと雑だけど、羽を広げた鳥っぽいよね?」

「なるほど!? つまり、てつで、とりをひょうげんするのが?」

「鳥鉄」

「これは、こだわれば、こだわるほど、すごそうです!」

 そうだろう。

 ありあわせの鉄で鳥を表現する人もいれば、細かいものや、自分で細工をして鳥を表現する、芸術家のような人だっているにちがいない。


「あとはおとてつですかね」

「音鉄」


 棒で鉄を軽く打ってみる。

 高い金属音がした。

 薄い鉄板をゆらゆら動かしてみる。

 ばよんばよん、と変な音がした。


「へんなおとです!」

 スライムさんがくすくす笑った。

 釘で、鉄板の端を引っかいてみた。

 キィィィィィ、と耳の奥がかゆくなるような音がする。

 スライムさんは、体をねじっていた。

「これは、危険だったね」

「はい!」

 音鉄は、はまると危ない。


 それから、すじ鉄という、筋状の細い鉄を楽しんだり、鉄子という女性の鉄を思い浮かべてみたり、弁当の鉄というおそらく弁当箱のことを考えたりした。

 他にも、飲み鉄という鉄のコップや、時刻表鉄という時刻を刻む鉄? などいろいろ、まだまだありそうだ。


「そういえば、切り鉄ってないの?」

 私は、お店に置いてある剣を見ながら言った。

 切るなんて、興味がある人が多そうだけれど。


「きいたことないですね」

「そうなんだ」

「きるひとは、けん、なんじゃないんですか?」

「ああ!」

 思わず声が出た。

 たしかにそうだ。

 剣オタだけでも、無限の広さがあるだろう。


「鉄オタって、剣以外でも、たくさんあるんだね」

「そうですね!」

「平和なのかな?」

 私は思った。


「そうですね! てつおたは、へいわですね!」

「ね!」

 私はまた、薄い鉄板をゆらして、ぼよんばよん、という音を立てて、スライムさんと笑った。


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― 新着の感想 ―
はじめまして。第一話から拝読しているところです。 ほんわかしていてよかったです。 何よりもすごいのは何年も継続されて何百話もあること! 継続は力なり、ですね。感服しました。
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