394 スライムさんと馬なし馬車
裏庭で薬草をとっていたスライムさんの背後から話しかけて、ちょっとおどかして遊んだあとのことだった。
お店の近くで変なものが浮かんでいるのに気づいた。
木でできた箱状のものが、草原の、すれすれを浮かんでいる。
私が使ってるベッドを横にならべたくらいの縦横の大きさがある。
深さというか高さというか、横の板は地面から私の腰くらいだろうか。
どこかへ行かないようにするためか、箱の端にロープがくくりつけられていて、ロープの端は地面に埋められた杭に縛りつけられていた。
「これは?」
「うまなし、ばしゃです!」
「馬なしの馬車」
私はくりかえした。
「車だね」
と言ったものの、車輪がついているわけではない。
浮かんでいるのだ。
「車輪がないから、車でもない……。馬車から、馬も、車も外したら……」
「!?」
スライムさんは、目を見開いた。
「……む?」
「……無?」
ほとんど同時に私たちは言っていた。
しかし、ここに大きな箱は浮かんでいる。
「スライムさん。私たちが見ているものは、なんなんだろう……」
「え、ええええいむさん、おちついてくださいいいいい!」
「これが落ち着いていられる? スライムさん。薬草から、薬草をとったら、なに?」
「? ……む、です」
「私たちは、いま、そういうものを見ているんだよ……」
ごくり。スライムさんがそう言った。
「えいむさん。どうしたらいいでしょう……」
「……私に、すこし、考えがある」
「すでに!? なんですか!」
私は、いったん草原に座った。
スライムさんも、ちょっとつぶれたようになる。
「馬車は、馬車じゃないのかもしれない……」
「えいむさん!? なにをいっているんですか!?」
「スライムさんは、私がおかしくなってしまった、と思うかもしれない。でも言わせてもらうよ。それがきっと、この謎を解く、鍵なんだ」
私は箱を見た。
「ど、どういうことですか」
「私たちは、あれを馬車だと思っていたから、迷っているんだ。でも、馬車、という名前が、まちがっていたとしたら?」
「ばしゃが、まちがっている!?」
「……そうだ」
私の頭にひらめきがやってきた。
それは、激しい光のようなものではなく、もっと、おだやかなものだった。
「えいむさん?」
「たとえば。もしだよ? あれの、馬車の本当の名前が、箱型馬つき車、というような、名前だったとしたら……?」
「ええ!?」
スライムさんが、わけのわからないことをエイムさんはまったくもう、といった顔になる。
「もしそうなら、馬がいなくなり、車輪が外れても、箱、が残っている」
「はっ! それは!」
「そう。みんなが当たり前のように呼んでいる、馬車、は正式な名前じゃないのかもしれない……」
「えいむさん!」
私はうなずいた。
「すごいことに、気づいてしまった……」
「はい!」
「これは、学会で、発表するレベルかも……」
「がっかい! すごそう!」
「だよね」
「はい!」
「このことは、私たちの秘密ね」
「はい! じゅうような、はっけんなので、ひみつにします!」
「……いや、やっぱり、秘密はやめようか」
「えいむさん?」
「この発見を、広く、いろんな人に知ってもらう。それが、この世界を、よりよくするものになるかもしれない」
「えいむさん……!」
そのとき風が吹いた。
今日は暑い日だったけれど、すずしい、さわやかな風だった。
「自分のことばかり考えてちゃ、だめだったね」
「えいむさん! すばらしいです!」
「ところでスライムさん」
「はい?」
「なんであの箱、浮いてるの?」
私は、重要な疑問に気づいた。
「それはですね……。よくわかりません」
「そっか」
「はい!」
スライムさんは、きりっ、として言った。




