393 スライムさんとヘビ
今日もお店の前まで来た私。
ちょっと、スライムさんをおどかしてみようかな、と悪だくみをしていたら。
「えいむさーん」
とスライムさんの声が近づいてきて……。
草原を、するするとやってくるスライムさんの顔……。
「え? え? え?」
「えいむさーん」
「来ないで!」
私はスライムさんから逃げた。
正確には、スライムさんらしきものから逃げた。
しかしするすると、すごい速さで静かに迫るスライムさんは、私の前にまわりこんだ。
「エイムは逃げた。しかし、スライムさんにまわりこまれてしまった!」
「どうしたんですか、えいむさん」
スライムさんらしきものは言った。
「スライムさん、で、いいんだよね……?」
「もちろん、すらいむです!」
「もしかして、食べられかけてる?」
スライムさんは、体がヘビのようになっていた。
というかヘビだ。
体の長さは、私の足くらい。太さは腕くらい。
それがスライムさんを食べたのだろうか。
「さっき、あやうく、たべられるところでした!」
「いまも食べられてるよ!」
「そうですか? ぼくは、そうはおもいませんけど」
スライムさんはふしぎそうにした。
「飲みこまれたら大変だよ!」
「でも、つっかえてるみたいです!」
スライムさんは、ぴょん、ととんだ。
「え、ヘビの体を、あやつってる?」
まるでスライムさんの意思のとおりに動いたように見えたけれど。
そういえば、私を追いかけて、まわりこんだのも、スライムさんの意思ではないだろうか。
「はい。ぼくのあたまに、ささったきばと、へびが、つながっているのを、かんじています……!」
「刺さってる!?」
「へびは、ぼくを、はきだしたいみたいです! でも、ぼくには、どうすることもできません!」
「たしかに、手も足も出ない、っていうやつだね」
「ぼくらは、どっちも、ないですし」
「それで、どうして私に向かってきたの?」
「ぼくが、へびに、このひとなら、なんとかできるっておしえてあげたからです!」
スライムさんは言った。
「スライムさんからの信頼は、ありがたいけど。私になにかできるかな?」
「またまた。いままで、ぼくのききを、すくってくれたのはえいむさんですよ!」
「そうかなあ?」
なんとなく解決していたような気がする。
「こんかいは、どうですか?」
「うーん。スライムさんをつかんで、引っぱったら取れるかな?」
「むずかしいですね! こまかいきばが、いっぱい、ぼくにかみついてますし、おおきいきばがいっぽん、ぼくのあたまにつきささってます!」
私は、おそるおそるスライムさんをのぞき見る。
すると、スライムさんの目の奥に、なにか白いものがちらりと見えた。
「目のところのそれ、もしかして、牙?」
すごく深い。
「そのようです! ちょっと、おくむきに、はえてるので、ひっぱってとるのは、むずかしそうです!」
「じゃあ、牙を折るしかないってこと?」
「それはいやだって、へびがいっている……」
ヘビの体がちょっとさがった。
「じゃあ、もっと口を開けてもらって、それでなんとかする?」
「いまも、げんかいをこえているのに、これいじょうあけたら、しんでしまうって、へびがいっている……」
「……ヘビは、どうしてスライムさんを飲みこもうとしたの?」
「なんかきれいだったからって、へびがいっている……」
「変わり者のヘビなんだね」
「てれるなあ、っていっています!」
変わり者のようだ。
「スライムさんって、形を変えられないんだっけ?」
「かえようとは、おもってますけど、こまかいきばがささってるので、ちょっと、あっちこっちがひっかかってます!」
抜け出そうと動いても、どこかが、なにかの細かい牙に引っかかっているという。
どうしたもんだろうか。
「ナイフで、ヘビの口の端を切って、ちょっと大きめに開くのも、だめだよね?」
「すらいむが、たすかるなら、おれはどうなってもいいのか! っていってます!」
「ごめんごめん。でも、君も、スライムさんを飲みこんで食べるつもりだったんでしょ?」
「たべるというか、くちのなかに、いれてみたかっただけだ、といってます! えいようも、なさそうだし、たべものとしては、きょうみは、ないそうです!」
「そうなんだ」
そのとき、私はあることを思い出した。
「ねえスライムさん。氷の魔法石ってある?」
「はい!」
「どこ?」
私は、スライムさんに言われたとおりの場所から、氷の魔法石を持ってきた。
それを箱に入れる。
中からひんやりした空気が流れてくる。
「スライムさん、ちょっと、この中に入っててくれる?」
「いいですけど?」
するするにょろり、とヘビイムさんは箱に入った。
私はふたをしめた。
しばらくしてふたをあけると、スライムさんがぐっすり眠っていた。
ヘビは寒い場所では冬眠するらしい、ということを思い出したのだ。
ぐったりしているスライムさんを、ぐりぐりと動かしながら、私は、失礼します、と言いながら大きくヘビの口を開いた。
無理やりスライムさんを取り出すと、はっ! と目を覚ました。
「えいむさん!」
「スライムさん!」
私たちは、よかったね、とすこし喜んだけれど。
「スライムさん、ヘビのあごを無理に開けちゃったから、ちょっとまずいかもしれない。治せる薬草ある?」
ヘビは口を開けたままぐったり、ぐっすり、している。
「はい!」
私たちは急いでお店にもどって、ちょっと薬草を器と棒で細かくすりおろすようにして、持ってきた。
それを、眠っているヘビを出してきて、口の中に入れた。
見守る。
ぱっ! と起きたヘビは、私たちを見ながら、もぐもぐと口を動かした。
それから、さーっ、と草原の中を進んで、どこかへ行ってしまった。
「元気そうだった、かな?」
「そうですね!」
スライムさんは、ぴょん、ととんだ。
「これからは、ヘビにも気をつけないとね」
「はい!」
「あと、スライムさん、頭に穴、あいてるよ」
牙の穴がまだあいていた。
私たちがお店に入って、薬草をもぐもぐしていたら、気づいたらスライムさんの頭の穴は消えていた。




