392 スライムさんとオセロ
私たちは、石、といえばいいのか、岩と言えばいいのか。
円形で、平べったく加工された石、の片側を持ち上げようとしていた。
「スライムさん、だいじょうぶ?」
「えいむさんこそ、だいじょうぶですか?」
私たちは、おたがいの顔を見る余裕もなく、全力でがんばっていた。
なぜ、こんなことに……。
「えいむさん、きょうは、なにかしますか?」
私がお店に入ると、スライムさんは言った。
「なにかするっていうか、私は買い物に来てるんだけど」
「なにかおかいあげですか?」
「ふふ。どう思う?」
私は微笑んだ。
「そのかおは……、おちゃをのんで、やくそうを、もぐもぐ、もぐりたいきぶんですね?」
「……ふふ、やるね!」
「はい!」
スライムさんは、ぴょん、ととんで、奥からお茶の乗った台車を押してきた。
「今日は、すっとする香りのお茶だね」
「はい! すっとちゃです!」
私たちは、すっと茶を飲んだ。
「すーっとするね」
「はい! すーっとします!」
体の中から、ほんのすこし、涼しくなるような、香りというか、なんというか。
「すー」
「すー」
すー、っとする。
そのとき私は、カウンターの端にある小石のようなものが気になった。
丸く、平べったい。大きさは私の親指の爪くらい。
持ってみる。白く着色されている。
裏は真っ黒だ。
「それは、おせろ、です!」
「オセロ?」
「はい! ひっくりかえす、あそびです!」
「そういう遊びなの?」
「はい!」
スライムさんが、むん、と言った。
それからスライムさんは、もっと石が入った箱を押してきた。
同じくらいの大きさの石がたくさん入っている。
「しろか、くろか、えらんで、そのいろにしたほうのかちです!」
「たくさんひっくり返せばいいの?」
「はい!」
「じゃあ、やってみる? 私は黒」
「ぼくはしろ!」
木の板を敷いた。
その上にザラザラと石を出していった。
「用意、はじめ!」
私たちは、いそいで石をめくっていく。
私は手で、スライムさんは口で。
「スライムさん、早いね!」
「ふふ」
スライムさんは、口を、石のはしっこに引っかける、ような動きで、ぽいぽいとひっくり返していった。
「……えっと、スライムさん」
「なんでふか!」
「これって、いつ終わるの?」
私たちは止まった。
数に偏りがあっても、手を止めなければどちらかの石だけになることは、ほぼないだろう。
「かくしんに、ふれましたね……?」
スライムさんは、ちょっと悪そうに笑う。
「うん?」
「こっちへ」
私は、裏庭に連れていかれた。
「おせろは、たしか、ころあいをみて、やめ! というかかりが、ひつようです……」
「二人では、無理だった……!?」
「しかし、どちらにしても、つづきがあります……」
「それが、これ?」
裏庭にあったのは、大きな平べったい石だった。
「こいしの、しょうぶでまけたとしても、おおきないしをひっくりかえせばかち、という、ぼーなすしすてむがあります」
「なんということでしょう……!」
私はおどろきでふるえた。
「でも、ぼくは、ひとりでは、ひっくりかえせませんでした……。かてません……」
スライムさんは、残念そうに言った。
「私も無理だと思う」
「そうですか? そうですか……。ぼくらは、まけぐみ……」
スライムさんは、しゅん、とした。
「……、一緒にひっくり返す?」
「え?」
「一緒にひっくり返したら、私たち、どっちも勝ちじゃない?」
「!? えいむさん、あくまてき、はっそうです!」
スライムさんは、ぴょん、ととんだ。
「大きいね」
「はい」
「重そうだね」
「はい」
「でも、やってみたいね?」
「はい!」
私は石をつかんだ。
幅は、私が上から、なんとか抱えられるくらい。
スライムさんは、石をくわえた。
「いくよ!」
「はい!」
私たちは石を持ち上げようとした。
しばらく力を尽くしたけれど、石はピクリともしなかった。
木の板を持ち上げるようなつもりで挑んだけれど、見た目とちがってはるかに重い。
私たちは、いったん石から離れた。
「スライムさん」
「なんですか?」
「今日、持ち上げちゃったら、おもしろくないよね?」
「!? そうですね!!」
「今日はこれくらいにしてあげようか」
「ふふ、そうですね……」
私たちは笑みを浮かべて、石から離れた。
決して、負けたわけではない。
「ふふ……」
「ふふ……」
何度でも挑める。
つまり、実質勝ちだ。
「ふふ……」
「ふふ……」




