387 スライムさんと吸着布
「あ、スライムさん、こんにちは!」
私は、お店の前にスライムさんの姿を見つけて手を振った。
スライムさんも私に気づいて、こちらへちょこちょこやってくる。
そのときだった。
私は草原を歩いていたのだけれど、たまたま、ある草の根本が出ていたというのか、大きくふくらんでいたというのか、でっぱりがあった。
そこに私の、右足のつま先が強くあたった。
ちょうど、地面についていた足をふみだそう、とした瞬間のことだった。
「あっ」
と、つんのめって、急いで左足を出したけれどもそのつま先も、あせったせいか、なにかをひっかくようになってしまって前に追いつかず、私は地面に突っ込むように倒れた。
顔は打たなかったけれど、膝からお腹や手などをついてすべりこんでいた。
立ち上がると、手にすり傷が、お腹や膝には、つぶれてこすれて広がった草の汁や、土がついていた。
私は後悔していた。
ちょっとでも前に出ようとしてこんな結果になってしまったが、別に、急ぐ必要もなかった。
せっかくの白いズボンが汚れてしまった。それも腹立たしかった。
また、母が、今日はこれをはいていったら? とすすめてくれたことも思い出し、腹を立ててしまっていた。母がそんなことを言わなかったら、私は白いズボンをはかず、汚さずにすんだのだ。
スライムさんがこっちに気づいたせいで、気が散って、転んだような気すらしてきていた。
「えいむさん、だいじょうぶですか?」
スライムさんがすぐ近くで私を見上げていた。
私はまた後悔した。
なにを考えているんだろう。
スライムさんが悪いわけないじゃないか。
母だって関係ない。
私がうかつだっただけだ。
「ううん、なんでもない」
私は無理に笑って言った。
「そうですか?」
「ちょっと汚れちゃっただけ」
「だいじょうぶなら、いいんですけど」
「帰って着替えてこようかな」
私は思いついて言った。
家まで帰る時間があれば、きっと、気持ちも落ち着くだろう。
こんなトゲトゲしい気持ちでスライムさんと過ごしたくなかった。
「だったら、あれをつかいますか?」
そう言ってスライムさんがお店に向かった。
入り口でつまずいた。というか、引っかかった、のだろうか。体の下側が段差に引っかかって、スライムさんは前転しながらお店に転がりこんだ。
「スライムさん、だいじょうぶ!?」
走って追いかけると、スライムさんはすでに奥に行ってしまっているようだ。
すぐもどってきた。
「これです!」
スライムさんが出したのは、白い、タオルのような布だった。
「タオル?」
「とおもうでしょう? でも、これを」
スライムさんは、ぬれている布を、ぺたり、と私の膝にあてた。
すると。
「あっ」
汚れが布に移っている。ズボンの、布をあてたところは、はすっかりきれいになっていた。
「ふふ。すごいでしょう!」
「うん、すごい!」
「これで、きれいになりますよ!」
スライムさんは、私に布をさしだした。
「……その前に」
私は、その布でスライムさんの体を、さっさっ、とふいていった。
ほこりや、土や、砂がついている。
「ぼくはいいですよ!?」
「ごめんね、ありがとう!」
「なんですか?」
「スライムさんをきれいにしてからでもいいでしょ?」
「はい!」
私は、使ったあとの布を見た。
「これ、汚れはどうするの?」
「みずあらいで、すっきりおちます!」
「今回だけ?」
「なんかいでも、です!」
「まあ、でも……、おたかいんでしょう?」
「1まんゴールドです!」
「本当にお高い!」
私たちは笑いながら、おたがいをきれいにした。




