385 スライムさんと忍者
お店の前。
私を待ち構えていたスライムさんは、包帯のような、巻いてある白い布のかたまりを頭にのせて、せまってきた。
「おじょうさん、ちょっといいですか?」
「あら、なにかしら」
「おねがいがあります」
と頼んできたスライムさんの指示に従い、私はスライムさんを、持参していた布で巻いた。
目だけが出ているようにして、すっかり巻き終えた。
「これでいいの?」
「はい!」
「これななに?」
「にんじゃです!」
「ニンジャ?」
聞き覚えのない響きだった。
「ニンジャってなに? 動物?」
「ちがいます。あえていうのなら、いきざまです!」
スライムさんは、きりっ、とした。
「どういう生き様なの?」
「しのびです!」
「しのび?」
「がまんづよいことです!」
「がまん」
たしかに、それは生き様だ。
「もしかして、こうやって体をぐるぐる巻きにしたのも?」
「きづきましたね! そうです! がまんの、いきざまです!」
スライムさんは、よく気づきましたね、と笑った。
「なるほど。じゃあ、もうニンジャ?」
「はい!」
「ニンジャ、おめでとうございます」
私は拍手をした。
「ありがとうございます!」
スライムさんは、きりっ、とした。
「えいむさんも、にんじゃ、します?」
「え、私も? 完全に素人ですけれど、できますか?」
「なかなかむずかしいですがね。ぼくを、みならえば、もしかしたら、なれるかも……」
スライムさんは、遠い目をした。
「がんばる」
「そのいきです!」
そのとき、私のお腹が鳴った。
「あ、まず、なにか食べてからでもいいかな?」
「たべものですか?」
「今日、ちょっと親が出かけてて、ちょうど食べるものがなくてがまんしてたんだ」
「がまん……!?」
スライムさんが、びくり、とした。
「いつも食べさせてもらって悪いけど、薬草をちょっと……」
「すでに、がまんをしてたっていうんですか!?」
スライムさんの目は、どこかおびえを感じるような、細かいゆれかたをしていた。
「うん」
「……わ、わかりました。じゃあ」
「あと、靴をちょっと、そのへんに干してもいいかなあ。右側だけ。その間、サンダルを借りられたらうれしんだけど」
「それは、ど、どうして」
スライムさんが、ためらいながら言う。
「うっかり、ちょっと水たまりに入って、先がぬれちゃったの」
「そ、それを、がまん、していた……!?」
スライムさんがふるえている。
「うん。まあね」
「あ、あわわわ」
「あと」
「あと!?」
スライムさんは、がくぜんとしていた。
「ちょっと肌寒いけど、薄着で来ちゃったから、お店の中に……」
「もうしのびです!]
スライムさんは言った。
「えいむさんは、にんじゃです!」
「え、え?」
「ちゅうにんです!」
「中人?」
ふつうの人のこと?
「もう、えいむさんは、ちゅうにんです! ぼくは、まだまだ、げにんです!」
「下人? そんなことないよ。スライムさんも中人だよ」
「えいむさん! そのこころも、ちゅうにんです!」
スライムさんは、ぱちぱちぱちぱち、と口で言った。
「おめでとうございます」
「ありがとうございます?」
「これからちゅうにんとして、ぼくを、きたえてください!」
「よくわからないけど、きたえてみればいいの?」
「はい! おねがいします!」
スライムさんが言う。
「じゃあ、まず、がまんして、お店のそうじを」
「あしたにしましょう」
スライムさんは言うと、ぱあっ、と体に巻きついていた布を取り払った。
「お見事」
「ふふ。ありがとうございます!」
「じゃあニンジャはまた今度にしようか」
「はい!」
「えっと、ニンニンっと」
「!? それなんですか?」
私がなんとなく言ったことにスライムさんが食いついた。
「え? ニンジャっぽいかなって」
「ぼくもやりたいです!」
「いいよ。ニンニン」
「にんにん!」
「ニンニン」
「にんにん!」
私たちは、ニンニンで手軽にニンジャをして遊んだ。




