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38 スライムさんとゼロ

 よろず屋に入ってみると、なんだかいつもと様子がちがっていて、私は息をひそめてしまった。


「これは……」

 お店の中は、0、と書かれた小さな紙がたくさんあった。

 カウンターの中の品物がない場所や、壁にそってならんでいる品物がないところなど、物がない場所には、これでもかと紙がある。

 0、0、0。

 ゼロばかりだ。


 そのとき、お店の隅で、紙が雑に積み上げられてできた山が、がさ……、がさ……、とゆれた。

「なに……?」

「えいむさん、ですか……」

 中から声がした。

「スライムさん?」

「はい……」


 紙が持ち上がると、さらさらと山がくずれて、中からスライムさんが現れた。

 でもすぐにスライムさんは紙の山の上に倒れてしまった。


「スライムさん? どうしたの? なにかあったの?」

「ぜろ……。がくっ」

 スライムさんは目を閉じた。

「ゼロ?」

「えいむさん……、もしかしたら、ぼくは、つかれすぎて、しんだかもしれません……」

「スライムさん、たぶんだけど、ちゃんと生きてるから安心して」

「そうですか?」

 スライムさんは、おそるおそる目を開けた。


「ところで、どうしてこんなにゼロが?」

「えいむさん。きのう、7のはんぶんは、3か、4かわからない、そんなじだいはまちがっている! そういうはなしを、ふたりでしましたよね?」

「うん」

 時代の話はしていないけれども。


「そこでぼくはかんがえました。すうじについて」

「数字」

「すうじは、0、1、2、3、4、5、6、7、8、9、がありますね?」

「うん」

「だからぼくは、0、1、2、3、4と、5、6、7、8、9のふたつにわけてみました。ちょうど、5こづつですし。ここになにか、はんぶんもんだいの、かいけつのてがかりが、あるのではないかとおもいまして」

「なるほど。そうだスライムさん、お母さんにきいたら、四捨五入っていうのがあるんだって」

「いま、しんだひとのはなしはしてません!」

「いや、死者じゃなくて四捨……、えっと、それで?」

「はい」


「ぜろってなんだろう、とおもいました」

「ゼロ?」

「ぜろって、なにもないんですよね?」

「そうだね」

「だったら、ふたつにわけたとき、1、2、3、4と、5、6、7、8、9のふたつになってしまって、ふこうへいですよね?」

「でも、ゼロがあれば、五つずつになるよ」

「ぜろがあるって、なんですか!」

「え……。うーんと」

 ゼロがある。

 たしかによくわからない。


「ないがある、ということですか! なんなんですか!」

「えっと……」

「でもえいむさん。えいむさんが、ただしいです……。ぼくは、きづきました……。ぜろを、うけいれなければ、ならないと……」

 スライムさんは、あきらめたように、目をふせた。


「スライムさん?」

「すでに、よのなかは、ぜろだらけだったんです……。ぜろが、せかいをつくっているといっても、かごんではないんです……!」

「スライムさん?」

「でも、このおみせには、ぜろがなかった……」

 スライムさんは、ぐるりとまわりを見た。


「ぼくはおもいました。ぜろをつくらなくては! そうしてずっと、しなものがないところには、ぜろ、とかいて、かいて、かきまくりました。ぜろを、おいておかないと、みんなぜろだとわからないでしょう? ここに、なにか、あるのかと、おもいこんでしまいます! だから、いそがしくて、いそがしくて……」

「書かなくてもわかるんじゃない?」

 私が言うと、スライムさんが、きっ、と私を見た。


「むせきにんですよ! じゃあ、10はどうなるんですか!」

「10?」

「10は、ぜろがなかったら、1になってしまいますよ! あるのか、ないのか、ちゃんとかかないとわかりませんよ!」

「うーんと……」


「ぜろはたいせつなんです! ぜろがなかったら、せかいはめちゃくちゃになってしまうんです! せかいは、ぜろでできているんです!」

「せかいは、ぜろ……」

 世界がなくなってしまった。


「こうしてはいられない! ないところにはぜろ! ないところにはぜろ!」

 スライムさんは、ないところには0! と言いながら、小さい紙に、0、0、0、と書き始めた。

 

 たしかに、0は大切なものだと思うけど、でも、なんというか……。


「あの、スライムさん。そんなにがんばらなくても……」

「がんばってるひとに、がんばらなくてもいい、っていうのは、ぼくはきらいです! ぼくは、せかいをすくうんです!」


 どうしよう。

 このままでは、スライムさんが、ゼロスライムさんになってしまう。

 ……ちょっとかっこいい名前かもしれない。

 

「ぼくがやらないと、よのなかのぜろが、わからなくなってしまう……!」

「スライムさん、ひと休みしない?」

「ぼくがぜろを、ぼくがぜろを……!」


 でもやっぱり心配だ。

 どうしたらいいんだろう。

 私は店内を見回した。

 それから……。

 ん?

「そうだ。スライムさん、この薬草っていくつ?」

 私はカウンターの中を示してきいた。


「やくそうですか? そんなの、なかをみればわかります!」

 スライムさんはちらっともこっちを見ずに言った。

「そうだよ、そうなんだよスライムさん! 見ればわかるし、きけばいいんだよ!

「え?」

 スライムさんは、やっとこっちを見た。


「薬草がひとつ、ふたつ、みっつって、いくつあるかわからないときは、確認すればいいでしょ? ゼロのときも同じだよ。ゼロだって、見れば、だいたいわかるでしょ? わからないときはきいて、わかるときは、それでいいんだよ。だからみんな、そんなにゼロばっかりじゃないんだよ!」


 スライムさんが書くのを止めた。

「もっと、おおざっぱでいいんだよ!」

「おおざっぱで、いい……?」

「そうだよ! もうちょっと、いいかげんにやればいいんだよ!」

「いいかげんでいい……」

「うん!」


 スライムさんの目が、いきいきしてきた。

「いくつあるか、てきとうでも、いい……!」

「うん! うん?」

「だいきんも、てきとうで、いい!」

「えっと、スライムさん?」

「そうだ。ぼくは、もっといいかげんだった! ぼくは、いいかげんに、おみせを、やります! わーい!」


 スライムさんはぴょんぴょんお店の中を走りまわっていた。

 私は、今日だけは、と注意したい気持ちをぐっとこらえた。




「スライムさん、いいかげんはだめだよ!」

 こらえられなかった。

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