368 スライムさんと鏡割り
「こんにちは」
お店に入ると、くるっ、とカウンターの上のスライムさんが私を見た。
「いらっしゃいませ! いいところに!」
「どうしたの?」
「これです!」
スライムさんの近くには、鏡があった。
私の手のひらくらいの大きさだ。
「かがみびらきを、します!」
「鏡開き?」
「かがみびらきは、かがみを、わるんです。そうすると、けんこうでくらせる、ふうしゅうです!」
「鏡を開くのが、鏡を割る?」
「そういうことです。よのなかの、ふうしゅうというのは、よく、わからないものですねえ」
スライムさんは遠い目をした。
「というわけで、かがみをわりたいんですけど」
「危ないんじゃない?」
「ぼくも、そうおもいます。あんぜんに、わるには、どうしたらいいでしょう」
「布で包んで割るとか?」
「いいですね!」
スライムさんは奥から、カナヅチと、なんだかツルツルしてそうな、表面がテカテカ光っている布を頭にのせてやってきた。
「それは?」
「このぬので、ふくをつくると、こうげきが、あたらなくなるという、ふしぎなぬのです!」
「それはだめ」
「えっ!?」
「もっと、ぞうきんみたいな布にしようよ。もったいないもん」
「そうですか?」
スライムさんは、しぶしぶ、汚れた布を持ってきた。
私は鏡をそれで包む。
「これで割ればいいんだね?」
「はい! えいむさんには、くろうをかけますねえ……」
「それは言いっこなしだよスライムさん」
私はカナヅチを手に取った。
軽く振りかぶる。
そこで考えた。
私はゆっくりおろして、こつん、とカナヅチを当てた。
「えいむさん?」
「私、思ったんだけど」
「なんですか?」
「本当に割らなきゃいけないのかな?」
私が言うと、スライムさんは、うっすらと微笑んだ。
「えいむさん……。ぼくは、いいましたよね……。かがみを、わるのだと……」
「うん」
「では、なぜ……?」
「私、思ったんだよね。昔の風習って、意外と、やるマネをするんじゃないかって」
「!?」
「だって思わない? 鏡を割ったら、もったいないって」
「!? たしかに!?」
「食べ物を割るくらいだったらいいけど、鏡を、それぞれの家で割ったら、もったいないよね。だから、割るマネをすればいいような気がして」
「たしかにそうです……。なぜ、わるのか。そこからして、いみがよくわからないのだから、かがみをわったら、もったいない……」
「もしかしたら、鏡を作っているところが広めた風習とか……」
私は悪い顔をした。
「どういうことですか?」
「鏡を割ったら、また、買わなきゃいけないでしょ? だから、鏡が、売れる……」
「!!」
スライムさんは、びくっ、とした。
それから悪く笑った。
「なるほど……。ぼくらは、きづいてしまった、というわけですね?」
「そう。私たちは、気づいちゃったんだよ」
「せかいの、しんりに」
「うん」
私は鏡を飾って、割るふりをした。
そして私たちはワルのフリをした。




