366 スライムさんとズボン
「寒い日に、冷たいものをちょっとだけ飲むのって、いいね」
「わるいことを、しているみたいですね!」
私たちは、ひとくちしか入らないような小さなコップでオレンジジュースを飲んだ。
「ところでえいむさん。すっぱくて、おもいだしたんですけど」
「すっぱいと思い出すんだね」
「はい! さいきん、なまえのひみつを、しりました!」
「名前の秘密?」
「はい! えいむさん、ずぼん、はいてますね?」
私とスライムさんは、私のはいているズボンを見た。
「今日は、裏地がちょっとふかふかした、あったか仕様のズボンだよ」
外はふつうだけれど、中がふかふかしていて、脚に密着してくる。
「いいですね! いろも、あったかそうな、ちゃいろです!」
「でしょう?」
「そのずぼんです!」
「ズボンが?」
「ずぼんは、ずぼん! とはくから、ずぼんなんです!」
スライムさんは衝撃的なことを言った。
「なん、だって……?」
私は、ひざからくずれ落ちそうになるのをこらえた。
「ぼくも、さいしょにきいたときは、みみを、うたがいました。ぼくにとっての、みみって、なんだ? って……」
「おや? 話題が、変わっている……?」
「でも、ずぼん! だからずぼん。おもしろいですよね!」
「話題がもどった……! それに、たしかにおもしろいね!」
「はい!」
私たちは、真理にふれた満足感で、心がいっぱいになった。
「ところでスライムさん」
「なんですか?」
「靴下は、くつした、ってはかないよね」
「うっ」
スライムさんが、苦しそうに、ちょっとつぶれた。
「スライムさん? だいじょうぶ?」
「だいじょうぶです……。ただちょっと、その……」
「どこか痛いの?」
「いたくは、ないです……」
「じゃあどこか悪いの?」
「いごこちが、わるいです……」
スライムさんは小声で言った。
「そっか。でもスライムさん、居心地が悪いなんて感じなくてもいいんだよ」
「どうしてですか?」
「スライムさんは、ズボンはズボンなのに、靴下はくつした、ってならないから、変だと思っちゃったんでしょう?」
「まさしく、そうです!」
「でも、パンツだってパンツ! ってはかないし、靴もくつってはかないし、シャツもシャツって着ないよ」
「うわぎは、べつ、なのかも……」
スライムさんが細かいことを考え始めた。
「きっと、そうじゃないんだよ、スライムさん。ズボンだけが特別なんだよ」
「!?」
「全部、ズボンのルールが適用されるって考えることが、まちがってたんだ。そんなふうに、ひとまとめにしていい、っていうわけじゃない。そう思わない?」
「……」
スライムさんは、遠い目をした。
「ちょっと、あたまがつかれました」
「私も」
「そうですよね?」
「ちょっと、スライムさんに、すごいって言われようと思って、急いで頭を使っちゃった」
「えいむさん」
「なに?」
「おくれましたけど、すごいです!」
スライムさんが、ぴょん、ととんだ。
「ありがとう!」
「ぼくも、あわてないで、ずぼんだけかもしれません! って、いえばよかったです!」
「あせっちゃダメだね」
「はい!」
私たちは、ゆっくり、のんびり、裏庭に薬草をとりにいった。
「あれ? うらにわに、いくのは、えいむさんのしごとでしたっけ?」
スライムさんが思い出したように言った。
「ここはスライムさんのお店なんだから、スライムさんだよ」
「……そうですね」
「変なスライムさん」
「へへ」
「ふふ」




