362 スライムさんとスカート
「えいむさん、いいところに!」
お店に入ると、あいさつもそこそこに、スライムさんが言った。
「今日は服を着てるの?」
スライムさんは、腰に布を巻いたような格好をしていた。
「もんだいは、これです」
「問題?」
「これは、これはすかーとですか?」
スライムさんは言った。
「急にどうしたの?」
「これが、あったんですけれども、いったいなんなのか……。ぼくは、こまっています」
スライムさんは言う。
「スカートなんじゃない?」
私はもう一度よく見た。
スライムさんの体の下側、口を半分隠すように筒状の布がおおっている。
それが、その太さのまま、スライムさんの体よりも下まできていて、カウンターにさがっている。
「はらまき、という、かのうせいを、かんがえています!」
私は、はっとした。
言われてみれば、やわらかそうな生地だし、なんといっても短い。スライムさんが着ているなら気にならないけど、一般的な女性が着ていたら太もものほとんどが出てしまうだろう。
といって、腹巻きだと長い気もする。
「えいむさんは、はらまき、つかいますか?」
「私は使わないけど、お父さんが使うよ。寒い時期は、お腹こわすからって」
「そうなんですか」
「お腹を温めると、いろいろ健康になるって」
「はらまき、しんじゃですか?」
「腹巻き信者」
でも信者というのは信じる者だし、そういう意味では信者なのかもしれない。
「ながかったら、すかーとですか?」
「そうだね」
ひざが隠れるとしたら、文句なくスカートだと言えるだろう。
「じゃあ、はらまきと、すかーとのちがいは、ながさですか?」
「そう、と言いたいところだけれど、私にもわからない」
「えいむさんにも、わからないことが」
「うむ」
私は重々しくうなずいた。
「スカートって、広がってるのもあれば、最初から最後までほとんど同じ太さのものもあるからね。長いのも短いのも」
「いろいろありますね」
「だから、スライムさんのそれも、すごく短いスカートだという人がいたら、スカートなのかもしれない」
「みじかくても?」
「うん。ズボンをはいてれば、スカートが短くても気にならないし」
「ずぼん?」
スライムさんが、うたがうように言った。
「すかーとのなかに、ずぼんをはいても、いいんですか?」
「うん」
「それで、すかーとが、きずつきませんか? わきやくに、なってしまったと!」
「!?」
考えもしなかった。
「そうか、今日は主役だと思っていたのに、脇役になるなんて、考えてなかったもんね」
「そうです!」
「私はそんな短いスカート、はいたことないから」
「しらないことは、わるいことではないですよ……。ただ、しってしまったら、きちんと、かんがえる。それが、できるか、できないか。どちらかです……」
スライムさんは遠くを見て言った。
「そうだね」
私はうなずいた。
「じゃあ……。腹巻きスカートということで、どうかな」
「!?」
「脇役、と見せかけて、実は最初から、影で活躍をしていたのだ! スカートと見せかけて、腹巻き!」
「!! おどろきの、てんかい!」
「ちょっと暖かそうだし」
私は腹巻きスカートをさわった。
もこもこ、とまではいかないけれど、厚みのある生地だし、やわらかい。
「スライムさんが迷ったということは、どっちの才能もあるということだよ」
「はい! きょうからおまえは、はらまきすかーとだ!」
スライムさんは言うと、それをぬいで頭にのせて、奥にぴょんぴょん向かった。
もどってきた。
「あれ? 腹巻きスカートは?」
「おくばしょがないので、おくに、おくことにしました! ただ、あることだけは、おしえてあげます!」
「じゃあ、腹巻きスカートあります、って書く?」
「! はい!」
私は、カウンターの端のほうに、腹巻きスカートあります、という紙を書いて、置いた。
「よし!」
「よし!」




