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358 スライムさんと浮き薬草

 お店に入ろうとしたら、ぶにょっ、と脚になにかぶつかってきた。

「あ、えいむさん!」

 スライムさんだ。

「おっと、こんにちは」

「こんにちは! いまぼくは、めずらしいものをみるために、いそいでいますが、いっしょにきますか!」

「うん」

 急いでいるらしいので私はすぐ言った。


 スライムさんを追いかけて、お店にそって走っていくと、裏手に到着した。


「ほおお……」

 私は思わず変な声を出してしまった。


 薬草だ。

 浮いている。

 ふわふわと、私のひざの高さくらいで浮かんでいる。

 しゃがんで、草の下に手を通してみたけれど、支えるものはなにもなかった。


「浮いてるね」

「はい! ういています!」

 スライムさんは浮ついていない、しっかりした口調で言った。


「いつ見つけたの?」

「さっきです! ちょっと、そとのくうきを、すって、たわむれようとおもって!」

「なるほど。昨日はなかった?」

「はい!」


 私は薬草を観察した。

「ちょっと大きい……。うん?」

 なんだか違和感がある。


「ふつうの薬草とちがうね」

 すこし見ていると、気づいた。

 根っこがない。

 浮かんでいる薬草は、中心から葉が四方八方に伸びている。

 その中心に、根っこにあたる部分がないのだ。


 そのことを言うとスライムさんも、ちょっと体を伸ばすようにして見ていたので、私が抱きかかえた。

「ほんとうですね!」

「どうやって育ってるんだろう」

 重力の影響を受けていないわけではないようで、葉は下に向かって曲がっている。


「たべてみますか?」

 スライムさんは言った。


「だいじょうぶなのかな」

「やくそうは、からだにいいですよ!」

「薬草じゃなかったりして」

「えいむさん」

 スライムさんは私のことを見上げた。


「このはっぱ。よくみてください。やくそうですよね?」

 私は葉っぱを見た。

「薬草だと思う」

 色も、形も、健康に育った薬草に見える。


「でしょう?」

「うん」

「いましか、たべられませんよ?」

「え? あ」

 私は気づいた。

 浮いているということは、明日もここにあるとはかぎらない。

 風にのって、いまにも、どこかへ行ってしまうのかもしれない。


「じゃあ……。食べちゃう?」

「はい!」

 私は、薬草を手で取ろうとしてやめた。


「直接食べてみようか」

「! いいですね!」

 私たちはスライムさんにうなずくと、スライムさんは下側から、私は上から薬草にかぶりついた。


「!?」

 すっ、と薬草が消えた。

 そして口の中には、しゅわっ、とする食感だけが残っていた。


「しゅわっとした」

「しましたね!」

 食感は下の上でだんだんうすくなっていった。

 味は特に覚えていない。薬草の香りはあったような気もするけれど、食べる機会が多すぎるせいか印象に残らなかった。


「あっ!」

 スライムさんが、私の腕からとびおりた。

「スライムさん?」

「あそこです!」

 草原の上。

 そこを、ふわふわと飛んでいくものが見えた。


 薬草だ。

「べつの、です!」

「行こう!」

 そう行って走り出した瞬間、口の中で、しゅわっ、という食感がまたしたような気がした。

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