357 スライムサンササン
「きょうは、ちょっと、でかけます」
私はスライムさんと一緒に、お店の裏の山をちょっとのぼったところへ移動した。
空が木々にさえぎられ、空気は涼しく感じた。それは、ただ草原で木陰にいるのとはちがって、どこか、まわり全体から涼しい空気がわきだしているような、そんな涼しさだった。
「こっちです」
スライムさんが案内してくれたのは、ぽっかりと、山肌に空いた穴のような洞穴のような空間だった。
私が立って歩いていくのにぎりぎりくらいの高さだ。
中は暗い。
「ここで、おいかけっこを、しましょう」
スライムさんが言った。
「追いかけっこ?」
「はい。もし、えいむさんが、ぼくにおいつかれてしまったら、たいへんなことになります」
「どんなことになるの?」
「えいむさんの、たいせつなものを、うばってしまうでしょう」
「私の? 具体的には?」
「……それはちょっと、おわってから、しらべます」
「まだそこまで、調べはついてなかったんだね」
「そうです!」
スライムさんは、むん、とふくらんだ。
「さいきん、そういうのを、しったので! やってみたいので!」
「追いかけっこ?」
「はい! ぼくをみてしまったら、つかまってはいけないのです。ここに、すみついている、ゆうれいなので」
「スライムさんは幽霊だった!?」
「きょうは、そうです」
スライムさんは、ぷるぷるゆれた。
なんだか、変な追いかけっこを知ってしまったらしい。
「えいむさん、こわいですか?」
「暗いからね」
「たしかに! じゃあ、さっさとやって、かえりましょう!」
「スライムさんは幽霊になりたいの?」
「ふふ。かも、しれませんね……」
スライムさんは意味深に笑った。
私たちは穴の中に入った。
奥はずっと続いているようだ。光の差す範囲に行き止まりは見えない。
「どこまで行く?」
「もうちょっといきましょう」
みるみる暗くなり、空気は寒さを感じるくらいになってきた。
道はまっすぐだけれど、足元がちょっと見えなくなってきた。
「そろそろ、ですかね?」
スライムさんは止まった。
「いい?」
「はい。じゃあ……、ぼくを、ぷにぷにしたいか……?」
「え?」
「ぷにぷにしていいから、だいじなものを、わたせー!」
スライムさんの声が穴の中でわんわん響いた。
「いま、逃げればいいのかな?」
「はい!」
私は振り返った。
いま来た入り口が光って見える。
この暗い空間から逃れたかった気持ちもあってか、私はいつもより速く走れたような気がした。
「はあっ!」
外に出ると光が目にたくさん入ってきて、私はいったん目をつぶった。
ゆっくり開く。
「えいむさん、はやいですよー」
スライムさんがとことこ出てきた。
「私の勝ち」
「はい!」
「この場合はどうなるの?」
「ええと……。なにもなしです! あえていうなら、なかよしです!」
「よし」
私はこぶしを握った。
「やったね」
「はい!」
「じゃあ、今度は私が幽霊やる?」
「どうしてですか?」
「スライムさんも、逃げてみたいかなと思って」
「! たしかに!」
私たちはまた、穴の中に入った。
冷たい空気が満ちている。
「この辺でいいかなあ」
「さっきはもうちょっとおくでしたよ!」
「うーん」
そのときだった。
私は、なにかやわらかいものを、軽くけった。
「あ、スライムさん、ごめんね」
暗くてよく見えていなかったけれど、スライムさんのような感触だった。
「ぷにぷにしろ。代わりに、お前の大事なものを置いていけ……」
スライムさんは言った。なんだか真剣な口調だ。
それに、目が赤く光っている。暗いとそうなるのだろうか。
「逃げるか……。なら、勝負だ……!」
スライムさんの目が赤く光る。
「逃げるのはスライムさんでしょ」
私はまわりこんで、スライムさんを、ぽん、と押した。
「!? どういう意味だ……!?」
「今度は私が追いかける番でしょ。ほら」
私は、ぽん、ともう一回押す。
「え? え?」
スライムさんが、え、と言いながら進み始めた。
「はい捕まえた」
全然ちゃんと逃げないので、私はすぐ捕まえることができた。
「私の勝ち」
「あ、あ、あ、ああ……」
スライムさんは頼りない声を出したと思うと。
ふっ、と私の手の中から消えてしまった。
「あれ? スライムさん?」
「こっちですよ、えいむさん」
スライムさんが奥からやってきた。
「あ、スライムさん」
「おくっていうから、おくにいったのに、どうしたんですか?」
スライムさんは不思議そうにしている。
目は赤くない。
「いま、スライムさんを捕まえたでしょ?」
「まだですよ?」
「うん?」
「?」
私は首をかしげた。
スライムさんは、ちょっと傾いた。
「まあいいか。じゃ、ここから、用意、はじめ!」
「はい!」
私は、ぴゅっ、と逃げ出したスライムさんをすぐに捕まえた。
「へへ、これで私の3勝ね」
「えいむさんは、まだ、2しょうです!」
「スライムさんは負けず嫌いだなあ」
「えいむさんこそ!」
私たちは穴の外に出てから、じゃあ、お店まで競争だ、と走り出した。
スライムさんが山道を転がって、すごい速さだったので追いつけなかった。
「負けたー」
「むん!」




