355 スライムさんとおっぱい
「ぼくって、おっぱいですかね」
スライムさんが言った。
お昼、カウンターでのんびりと話をしていたときのことだった。
聞きちがいだろうか。
「ちょっと詳しく聞かせて」
「はい」
スライムさんが用意したお茶を飲んで、一息ついた。
「おいしいね」
「はい!」
「それで、なんの話だっけ」
「ぼくが、おっぱいではないか、というはなしです」
いったい、どういう話だろう。
いや、もしかして、私が思うおっぱいとは別のものだろうか。
「おっぱいって、胸にある?」
「はい!」
同じもののようだ。
「おっぱいというのは、やわらかくて、だんりょくがあり、まるっこい、といわれていますね?」
スライムさんは言った。
聞けば聞くほどおっぱいだ。
「そうだね」
「つまりぼくでは?」
スライムさんは私を見た。
「ううん……。たしかに?」
「えいむさんの、おっぱいは、どうですか?」
スライムさんは、私の胸を見た。
「スライムさん。他人のおっぱいについて、勝手にふみこむのはよくないよ」
「わかりました。すみませんでした」
スライムさんは、ぺこり、と体のなかほどをへこませた。
「いいでしょう。私も鬼ではないのでね」
「たすかります。じゃあ、ぼくのおっぱいのはなしは、いいですか?」
「場合によるけど、私とスライムさんの仲ならいいよ」
「ありがとうございます! じゃあ、ぼくぜんたいが、おっぱいのばあいはどうですか」
「多分、いいんじゃないかな」
「やりました!」
スライムさんは、ぴょん、と軽くとんだ。
「それで、おっぱいのはなしです」
「うん」
「ぼくはおっぱいですか?」
「通常は、体の一部におっぱいがある、ということだから……」
「おっぱいではない」
スライムさんは、重々しく言った。
「でも、全部がおっぱいなんて聞いたことがないだけで、おっぱいである可能性も、ある」
これまでで、前例がないからといって否定してしまうのは、まちがっているかもしれない。
「スライムさんは、おっぱいかもしれない」
「ぼくは、おっぱいかもしれない」
スライムさんは慎重に言った。
私はうなずいた。
「体の色が青くて透き通ってるけど、でも体の色が何色でも関係ないと思うし……」
私は考えた。
最初聞いたときは、そんなわけない、と思ったけれど考えれば考えるほど、おっぱいかもしれないという気になってきた。
「ちょっとさわってもいい?」
「はい!」
私はスライムさんに手をのせた。
ひんやりしていて気持ちいい。
もんでみると、ぷにぷに、ぐにぐに、むにむに。なんとも言えない弾力がある。
「……おっぱいかもしれない」
「ほんとうですか!?」
「おっぱいというのも、人間の中でも、大きかったり、小さかったり、長さがちがったり、いろいろな形があるんだよ。人間以外ならもっと。だから、誤差を考えると、おっぱいかもしれない」
私はこれまで見たことのある、おっぱいを思い返しながら言った。
「ぼくは、おっぱい!」
「いや……」
「え、ちがうんですか!?」
スライムさんはおどろいたように言った。
「私が思うに……。スライム全体が、おっぱいかもしれない」
「しゅぞく、たんいで!」
スライムさんが目を、かっ、と開いた。
「私たちは、とんでもないことに気づいてしまったかもしれないね」
「はい! おそるべき、はっけん!」
私たちは真剣におっぱいについて考えた。




