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354 エイムイム

「これはどういうことだろう」

 私はカウンターの上で言った。


 ここはスライムさんのお店である。

 何度も来ているから、特にカウンターの近くなんて、これといって特別な印象を持つことはもうないだろうと思っていた。わざわざそう思うことすらなかったともいえるかもしれない。


「どういうことでしょう」

 スライムさんが横で言った。


 私の体はカウンターの前にある。

 私の頭はカウンターの上にある。

 頭だけが分離してカウンターの上にいるのだ。

 どういうことだろ。


「私たち、なにをしてたっけ」

「やくそうを、たべてました!」

 スライムさんは言った。


「そうだけど。いつもとちょっと、ちがう味じゃなかった?」

「はい! ちょっと、ぴりっと、からかったです!」

 びりっと辛いけれど、わざわざ辛いと言うほどでもない、と思って私はだまっていたけれど、スライムさんもそう思っていたらしい。

 食べる前に、ちょっと古い薬草と話していたのも覚えている。


「食べながら、裏庭に行こうっていう話をしてたんだっけ?」

「そうですね」

 裏庭から薬草を追加しようという話をしていたところからも、やっぱり、新鮮な薬草のほうがいいという気持ちがあったのかもしれない。

 でも、である。


「おいしかったよね」

 私は残っている薬草を見た。

「はい!」

 おいしかったのだ。

 変なぴりぴりはあったけれども、いつもの薬草よりもずっとおいしかった。

 さわやかで、気持ちがいい後味。

 それこそ、ぴょん、ととんでみたくなるくらい。


「……それかな?」

「かもしれませんね」

 あまりにおいしくて、ぴょん、と頭だけカウンターの上にとんでしまったのか。


「なんか、私もスライムさんみたいになってきてるのかな」

「えいむいむですね」

 スライムさんが、きりっ、と言った。


「エイムイムか」

「はい!」

「でも、私は自由に動けないから不便なんだよね」

「こまりました!」

「……治す方法、あるかも」

 私は、まだ残っているさっきの薬草を見た。


「なんですか!?」

「これを食べて飛んだんなら、また食べたら、ぴょん、ととんで私の体の上に乗っかれるかもしれない」

「なるほど、めいあんです!」

 私たちは成功を確信した。


「えいむいむさん。ぼくに、ひとつかんがえがあります」

「なに?」

「もし、おちたときのために、ふかふかのものを、ゆかに、しく、というのはどうでしょう」

「……名案だよスライムくん!」

「!!」

「安心だ! ぜひ、頼むよ!」

「はい!」

 スライムさんはお店の奥に、ぴゅっ、と消えると、大きな箱を押してもどってきた。


「力持ちだね」

「ふわふわで、かるかるです!」

 箱の中には、白い、クッションのようなものが入っていた。

 たくさん入っていて、スライムさんは出しては、立っている、私の体の近くにならべていく。


「どうぞ!」

 スライムさんが、カウンターの上の私を見た。


「じゃあ、やるね」

「はい!」

 私は唇をとがらせて、なんとか薬草をつかまえて口の中にひきこむと、食べた。

 ぴりっとして、でもさわやかで、とても気持ちがいい味だった。

 空を飛んでいるようなさわやかさ!


「わっ」

 ぴょん、と私は飛び出した。

 どういう原理かわからないけれど、とにかく飛んだ私は体の横を通って、ふかふかに落ちた。


「わっ」

 沈んだ。

 全然痛くない。

 ちょっとあまい香りがする。


「だいじょうぶですかえいむさん!」

 スライムさんも飛んだ。

 私の横に落ちて、ふわ……、と沈んでいった。


 私たちは顔を見合わせた。

「ふわふわだね!」

「はい!」

 ふわふわ沈んでいって、ぴったり合う。

「快適。寝ちゃいそう」

「ふふ。いいんですよ!」

 スライムさんは、体をゆらしている。


「どう?」

「ゆらすのも、また、いいものです!」

 スライムさんがゆらすので、私のところもゆれて、ふわふわが気持ちいい。


「もっとゆらして」

「はい!」

「わっ」

 ふわふわしたままゆれる。

 雲に乗れたらこんな気持ちかもしれない。


 そのとき。

「うわっ!」

 なにかが倒れて、のしかかってきた。

 体が重くなって、私はもがいた。

 もがいた? 体がないのに。

 いや。

 私は床に手をついて、ゆっくり起き上がった。倒れてきたのは私の体だった。

 元通りになったのだ。


「治った!」

「よかったですね!」

「うん! じゃあ、お礼に」

 私は、スライムさんが乗っているふわふわをゆらした。


「わっわっわわ」

「どう?」

「ふわふわゆらゆらです!」

「えいえい」

「わわわわ!」

 私は視線がゆらゆらしているスライムさんを見ながら、ふわふわをゆらした。

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